53 ダンジョンアタック・MPKトレイン

「さぁっ、次の階層にまいりましょう!」

「いえーす・まいれぃでぃー」


 人は慣れる生き物だ。

 いや全ての生き物は状況に慣れるもの、かな。


 隊列変更以降の殺戮……いや蹂躙……もとい結果的に安全な探索も、傍観者の立場でその安全を実感してしまえば……あとは退屈の気持ちが膨れるのだろう。

 徐々にリリィティア様は不機嫌さを醸していたり。


 正直、“えー……”な気分だよ。


 リリィティア様ご希望の“首刈りウザイン”の雄姿っすよー。


「ウザイン、雄姿とは雄々しき殿方に使われるものですよ。しかし貴方、覇気も無くただ歩くだけでしょう。言葉使いも妙にへりくだってきましたし、まるで小間使いのようですよ!」


 そう指摘され、“はっ!”と俺は自覚する。

 ヤバい、もしかして本来の“ウザインらしさ”が出はじめてるのか? と。


 そういや、こうも長くリリィティア様の命令で動くってのは初めてだ。

 しかも今日はフラウシアも居ない俺単身でのもの。

 保護者の意識が薄い上に、〈ローズマリーの聖女〉学院時代後半のリリィティア様の部下その1な状態に近い環境ってのは……チャンスとばかりに物語の修正力っぽい何かが働いても不思議じゃないなと……自覚しちまったわけだ。


 ……うす。

 とりあえず三下マストの語尾の「っす」は心の中でも出さんよう気をつけよう。

 ただ――


「下級貴族の現実は御理解されますと……」


 これでも実家の嫡男の籍は捨ててないからねぇ。

 何時か何処かでやらかした不遜ってのは、後々までの禍根になる心配はあるんだよねー。

 特にその相手が女性となれば……下手すりゃ一生ものの禍根にも化けかねないしぃ。


「社交の場ならいざ知らず、今は共に行く戦友の地でしょうに。むしろ先の戦いのように、“誰か”を庇う騎士の行いならば立場など気にせず、豪放磊落、漢らしく振る舞いなさいませ!」


 ……んー……まぁ、そういうのをお好みってんなら、多少言葉を何時も通りにできるから気は楽か。


「では、たまに粗忽者となることにご容赦を」

「ええ、許しますとも」


 ……なんだろう。

 視界の端に写る騎士二名の反応が妙に気になる。

 オッサン騎士が御主人の無礼講宣言に偏頭痛って態度はまだ解るんだが……、女騎士さんが喜色浮かべて興奮してるのって……なんなん?


 メイド隊を見てみる。

 女同士の機微のナントカの説明があるなら聞きたいんだが……はい、無反応ですね。


 ……まぁ、いいか。

 すぐに解らん以上長々と悩んでていい状況でもないし。

 最悪、貴族的にヤバい状況になりそうなら実家頼りで寄親のガーネシアン公爵に話しつけてもらおう。あそこなら公爵家として同格。ライオンレイズ公爵家でも好き勝手に無理を通される心配も減る。


 ちなみに、21階層の未踏破地域はあっさりと踏破した。

 特に目立つ場所でも無し。単純に通路と小部屋を数ヶ所確認したので終わった。

 マップ情報は懐かしき俺のゲーム機能にオートで記録されてるし、女騎士やメイドも各自記録は付けている。

 こちらはリリィティア様経由で生徒会に報告を上げてもらえば良いだろう。こういったのは、彼女の功績にしてもらった方が……たぶん、俺にも都合が良いし。


 22階層へのルートは来た道を戻らず、俺は初見のルートを行く。

 しかしそれでこの階層を完全踏破というわけには行かず。

 つまりダンジョンのこの階層を、俺の魔力領域支配の下には置けないままって事になる。

 ……まぁ、学内ダンジョンは最短ルートばかり移動してるんで、廃城ダンジョンのようにはいってないんだけどな。


 それと悲しいお知らせが一つ。

 俺が深層へ向けて移動を始めたせいだろうか……反応する魔物がどんどんそっち側へと逃げてるっぽい感じに。

 ヤバいなー……。

 他に調査探索に当たってる方々に魔物を押付けてるかもしれない。


 原因はやっぱアレだよな。

 俺の身の回りの魔力の質を、より魔物が嫌う性質に変化させたせい。

 最初から7割には効いてた効果なんだし、逃げ道のある方向に追えば自然と……別の階層に逃げるよな。


 でも仕方が無い。

 現状、ここで俺の打てる対応策が無いんだもんよ。

 せめて地上なみに探査範囲を広げれたらなぁと、無理な事を思ってみたり。

 いろいろ組み合わせりゃ数キロ単位で状況を把握できるから、敵の誘導や囲い込みも楽だったのにという無い物ねだり。


 黙ってて良い情報でもないので、一応全員に共有しておく。

 対してリリィティア様の意見は冷静……というよりは、冷徹か。


「この場所で起きる事は全て自己責任ですわ。私共の関係者には高位貴族の責務が、それ以外の者達には命を秤にかけた報酬が。ウザインが気にすることはありません」


 俺には有り難い言葉だけどね。

 それで心情すっぱり切り替えられてもいないけど。


 ともあれ、次の階層への大渋滞が発生している可能性はあるので、全員その覚悟つきで進むようにの注意はできたと思っておこう。


 ……で、予想半分。当たってた現場です。

 渋滞は起きている。しかし、おそらく、次の階層へは被害が届いてそうには無いな。

 その階段の手前で冒険者達が防衛陣を築き対抗しきっているからだ。


「ほらごらんなさい。この場に居るのは其処いらの魔物に遅れは取らない猛者ばかりです。ウザインの懸念は、行き過ぎれば彼等への侮辱でしょう。ですから気にしなくても良いのです」

「……ソウデスネー、じゃ、ちゃっちゃとその元凶は去りますか」


 結果とリリィティア様の言動は、如何にも頼りがいのある戦いが行われている風であるが……そうだなぁ……実態はやや、阿鼻叫喚気味?

 戦い様から推測する実力はダニングス達より二段くらい下っぽい人員が数十人。

 なんとか前線を保持しつつ、拠点だからかサポートだけは充実した補佐のお陰で、肉の壁が成立してる感じ。

 魔物と直に対峙してる連中に敬礼って気持ちが無性に湧くわぁ。


 とりあえず、補給要員の居るとこに回復薬をゴソッと置いて脇を過ぎ、俺たちは次の階層に向かうことにする。

 ……たぶん、俺が移動すりゃ沈静化するだろうから、それまでガンバレ、冒険者!




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