15 未見イベントの下準備 (2)
ダンジョンの場所は知ってるので、とりあえず向かう。
参加要請はされたけど、実のところ実戦用の武装とか用意してないしな。学内の実技で使うものは学生共有の貸し出し品だし、それも多くは刃引きしたナマクラのものが大半なのだし。
一応、通学用の馬車の中に見張り付きで置いてはあるので、必要ならば取りに行かせる手間もいる。
ちなみに、魔術の行使に発動補助として杖やワンド型の発動体を使う学生は居るが、それらは各自の私物である。魔術は各自の個性が反映する技能だからね。適当な発動体でホイホイと気軽に使えるものでも無いらしい。
……俺の場合、例外的に使う必要は無いんだけども。
ついでに言えばフラウも特に使っていない。基礎の部分を俺が鍛えたからな。有能なフラウはしっかり、それを実にしてる良い子なのだ。
余談として、確かライレーネは指輪型の発動体だっけか? ご先祖様の形見とかなんとか。またリースベルは特殊極まる戦神系のものなので発動体を必要としていない。
その他の知人は魔術を使っているとこを知らないから、どういった感じなのかも解らない。
まぁ、今回のダンジョンで一般の魔術行使のスタンダードも解るかな。
練習と実戦じゃ、やっぱり違うとこあるだろうし?
校舎から出て中庭を歩き、やがて見知った景観になると目的地だ。
地続きでダンジョンになる境界の生け垣前に大きめのテントが設えられ、珍しくも校内専用の警備員が二人、テントの出入り口に門番のように立ち警戒していた。
「一年学生、ウザイン・ナリキンバークです。参加要請に従い出頭しました」
「伺っております。中にどうぞ」
警備員に要件を言えば、特に詰問されるでもなく通された。
扉代わりのカーテンをまくって中に入ると、そこには仮説のテーブルやイスが幾つも置かれて大きな地図や報告書の山で雑然としていた。
加えて、それら書類と戦う人員が多数。みなさん結構真剣な雰囲気で、ちょい鬼気迫る空気が満ちてるマジな場所。
戦場の作戦指揮所ってこんな感じなのかね?
居る者達が教師と学生ってのに違和感はあるけど。
そういった第一印象とはまた別に、室内の中心に陣取ってる人員を確認したら、その場で回れ右して帰りたくなった俺。
いやいや、確かに一大事な案件なんだから学院の中心人物が集まってる事に否は無い。
が、会いたくないランキング上位の方々ばかりってのは、正直腰が引けるしかないんだが?
陣頭指揮をとる学生のトップの生徒会長、ヒースクラフト。
彼の腹心であり、学内魔術士の統括も兼任しているメルビアス先輩。
まぁ、メルビアス先輩はともかく、居て当然のヒースクラフトは許容内。
てっきり、俺を呼び出した張本人のブレイクン先輩を期待したんだが、まぁ許容内。
が、確か生徒会メンバーでも無いはずのリリィティア様は、なぜここに居る?
しかも真っ先に俺の登場に反応して、いかにも“にやり”と微笑んできたのは……何故?
ついでに知らないが気になる人物。
ヒースクラフトの隣に並び、甲斐甲斐しくサポートをしている異形の少女。
とっさに言葉にしなかった自分を褒めよう。
彼女の長い耳という特徴に“エルフ”とか言わんかった自分に。
これは、アレだ。
先日の報告で聞いた“妖精人”で“五番目の聖女かもしれない”対象の現物だ。
というか、俺の視点から言うともっとヤバい特徴があるわ。
黒髪、どちらかと言うと彫りの浅い容貌。そして改造しまくってゴスロリ感とJK風味が盛に盛られた女子制服とか。
これ、絶対前世の記憶持ちのギャルさんじゃないのかな?
妖精人の文化自体にJKスタイルが酷似してない限りでの確信。
ネイルアートのデザイン感だけで説明不要だよ、これ。
あとギャップも酷いな。
当人はおバカ女子な服装なのに、手元の御仕事がバリ有能。
おそらくはダンジョン調査の一時報告的なレポートが雑多な感じに提出されてんだが、それらメモ同然の内容を統合し、清書し、纏めた形にしてヒースクラフトに渡しているという……。しかもほんの数分で。
数字の暗算の助けなのかな、空いた方の手の指がテーブルの一角をタップするように凄まじく跳ねている。しかしよくよく見れば、それも俺には馴染みのある動きだ。珠算、算盤の玉を弾く動きにしか見えないし。
……やべぇ、この女。
確実に俺の同類だ。
そして露骨にヒースクラフトに媚びうる態度。もうこいつ、ヒースクラフトの攻略に全開で挑んでるじゃねーかっ。
聖女候補とかもう放っといて、俺の俺による俺自身の破滅回避計画の最大の障害な感じに動いてるぞ。
はやく何とかしないとっ。
いや、せめてこのエルフが明確に障害なのかどうかぐらいは確認しないと。
俺の意識はダンジョンの危険性とかもう放置の方向で。
この目の前の危険物をどうするかに集約するしかないと決めていた。
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