13 また面倒ごと…

 さて、二度目の図書館通いだ。

 今日は前回頼んだ学院内各所の図書館にあるかもな、トリシア関連の書籍記録の報告日でもある。

 というか、それがメインだな。図らずも前回の情報収集は有益なもんがほぼ無かったし。

 想定外のものとしては四番目の聖女候補との邂逅。不確定なものとしては五番目の聖女候補かもしれない人物の情報は得られたが……結局、それらは経過報告待ちなのだし。


 前回同様に受付での応対から始める。

 対応する司書は初見だが、二言三言話すと前回用事を頼んだ担当へと連絡が繋がり、少しの間を置いて再会となる。


「ああ、ウザイン・ナリキンバーク様。ご依頼の資料の記録一覧は揃っております」

「おお、ありがとう。随分と仕事が早いな。正直、今日は途中報告を聞くつもりでいたので助かる」

「はい、時期的に仕事の少ない者もいますので。また優先度の高いものと指示を受けてもおりましたので……」


 ……はい?

 えーと、なんだ、それ?

 確かに、使い魔案件に関しては実家の者も動かしての並行調査にはしてたが……なんか裏工作の効果と上手いこと噛み合ったのかな?

 ……そういや、前回の初利用時からナチュラルに俺への認識が深かった気も。

 悪名多いうちの知名度にしても、接点の少なそうな学院関係者にまで初対面の俺が知られてるってのは、考えてみりゃ不自然だよな。


「あー、その指示というのは?」


 まぁ、この程度の不自然は手間無く解消しとこう。

 うちの暗部の実態は俺も関知外な部分が多いし。客観視点の認識情報も少しは欲しい。


「はい、ロゼッテンス様よりウザイン様の魔術関係の思索には迅速な対応をと」


 ロゼッテンス家? ああ、メルビアス先輩か。

 あの人は学内の魔術系派閥の筆頭だし、なら図書館関係者への発言権も大きいか。

 彼との縁故といや“あの一件”しか思い至らないが、想定外に俺への印象はプラスなのかもか。

 まぁ、なんにしても助かった。

 さすが貴族社会の人脈。実益が最高ぉですな。


「――他にも、ライオンレイズ様よりも対応優先度の指示が届いております。こちらとしては、当施設を利用するにあたって前以て支援者からの推薦を得たものと……」

「…………」


 おおぅ……。

 ここで聞きたくなかったもんまで知ってしまった。


 ライオンレイズ家。ということはライオンレイズ公爵家であり、学院内に限るならばリリィティア様の事を指す家名。

 ついでに言えば、この世界の学生生活の時代のラスボス様。

 間接的に俺の破滅ルートの関係者でもあるんで、絶対に接点をとりたくない人物リストの上位者だよ。


 不可避だったっぽい初対面のイベントも無事にやり過ごし、以後はまた何かの固定イベントじゃなきゃ再会は無いと踏んでたんだが……こんな裏工作をしてましたかー……。

 さすが貴族社会、油断ならねー。


 さしあたって、所属派閥が違うからの接点を薄さを、それをある程度無視可能な学院内で埋めとこうって腹か?

 俺の日常での行動をそれとなくサポートし、外堀から恩を売っとくな感じで。

 俺が気づいた時点では完全にリリィティア様陣営と周囲は認識し、もしかしたら将来の貴族派閥までその関係を持ち越そうとかな。

 知らず彼女に反発する立場をとっても、うちは貴族じゃ悪名寄りの立場ってのが上手く働く。金次第でどうとでも動く恩知らずな成金貴族なんだからってな。


 視線を背後に。

 メイドの一人が気配を消して退場。

 特に言葉にはしてないが、俺の言いたい事は伝わったろう。

 とりあえず貴族社会式の対応は親父様主導で動いてくれた方が面倒がない。


 微妙な空気の変化で担当司書さんも察したかな。


「そっ、それではこちらが資料の目録となります。該当する書籍は各図書館に纏めてありますので、お手間ではありますが各館へと御足労をお願いいたします」

「はい、ありがとうございます」


 ま、気まずくはなったが助かったのは本当だ。

 欲を言えば前回の珍事、ツララのその後の様子も聞きたかったが、今は止めといた方が無難かね。

 俺が彼女に興味がありますな情報は、あまりリリィティア様には伝わってほしくは無いよ。


 ちなみに、ツララの外付け思考補助器になってる神具カルキノスへのハッキング進行度は現在42%。どうもビッグデータ……もとい重要度の高い領域に接触してるようで、進み具合は停滞中だ。



 そんなこんなで、一番近い方の図書館へと移動だ。

 各図書館は本校舎を中心に東西南北に配されていて、俺が最初に利用したのは南の図書館。通称、南館と呼ばれている。分館化している施設の中で一番古く、図書館の窓口扱いにもなっていたところだ。

 他の三館は時代で増えた学院蔵書の保管所の性質が大きいが、何度か配置を整理し現在は独自の図書館としても機能している。方位で分けられたのは災害時のリスクヘッジで隣接させないためだったとか何とか。しかし明確に計画された建設でもなかったので、特に建設地での精密性などは無い。

 つまりまぁ、どの分館へも本校舎を介しての移動という制約はあるものの各分館で近い遠いという意味が生じている。


「移動の手間の少ないのは北館、次は東館で、最後は西館か」


 単純に移動距離の問題の他、通過途中での面倒も加えての感じで。

 特に西館は、上級生の多い校舎なので予定外の面倒が多そうなんで。

 具体的には、リリィティア様とかリリィティア様とかリリィティア様とかへのランダムエンカウントとか。


「……ま、順当に北館からかな」


 今日の面子は俺とフラウと、メイド隊が暫定三名。

 ライレーネは外せない授業で居ないし、リースベルは相変わらず神殿の方優先で未参加中。最近は人数が増えての行動が多かったが、久しぶりに学生生活での基本の形として気軽な感じに動けるのが懐かしい気分だ。

 ……と、思ってたのも一瞬の事。


「あっ、兄さん、みつけたん!」

「……!」


 今日も居ないと思ってたリースベルの登場である。

 これも久しぶりというか、彼女の背後には神兵甲冑のお付き(ゾンビ)も五体。フルパーティの状況である。


「なぁなぁ、兄さん。ちょっと困ってるん。助けてほしいん!」

「……あー、ちょっと待て。いろいろと突然すぎるぞ」


 黙ってればチャカにも劣らぬ小動物。しかし会話での意思疎通となるとチャカ以下のリースベルだ。時間を友好に使うのなら俺が主導権をとってくのが効率がいい。


「まずは出会いの挨拶からな。おはよう、リースベル」

「あーうー、おはようなん、ウザ兄さん、あとフラウも」

「……(ぺこり)」


 リースベルがフラウの友人枠に入った頃よりの調き……訓練により、この段取りがルーティンとなってからのリースベルなら話やすい。


「で、確か今日も出動待機で戦神神殿の分室の予定だろう?」

「そうなん! 本当に退屈なんよ!」


 例のダンジョン騒動以来、どこから情報を……まぁリースベルなんだろうが、その危険性を知った戦神神殿は、今回の異変の緊急事態性を五月蠅いぐらいに学院側へと主張し、妥協案として校舎内の一画に戦神神殿の分室を置く事に成功した。

 ここにある程度の神兵を待機させ、また異変が起きた場合は対応戦力を投入という算段なのだとか。

 で、所属は戦神神殿であるリースベルにも待機命令が出た。

 学生の立場でもあるので常時ってわけでは無いのだが、授業と休養以外の空き時間はほとんどがそこに拘束される感じになり、フラウがもの悲しい気分になってる残念な状況なのである。


 メイド隊の報告で聞くリースベル自身の状況としては、甘味と食い道楽の時間が激減して非常に剣呑な雰囲気なんだとか。

 あまりフラウに関する言動の無い薄情さなので、特に温情の手を出すようには指示してない。うん、放置 放置。


 そして今日もリースベルは待機が御仕事。

 ゾンビに囲まれて節制してなさいな日のはずなんだが……。


 ということで、本質の部分の質問タイム。

 チマチマと質疑応答を続ける内容は省略しての簡潔的な内容としては……


「oh……なんてこったい」


 そうとしか言えない。

 要約した内容でいうならば、俺はこれから、半分以上強制な感じでダンジョン探索をしなきゃならんらしい。


 なんかこう、また俺の知らない謎のイベントが起きたっぽいんだが?



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