05 小動物の主役ポジは真理

 貴族令嬢らしき着飾り祭りという名の女子会も終わり、まるで激しい運動後の疲労でぐったりするフラウ達と、やたらとツヤツヤ感の雰囲気を醸すメイド隊フラウシア分隊との、約二時間振りの再会。

 ぐったりフラウシアすっきりライレーネ腹減ったリースベルと三者三様の様子だが、屋敷の庭でお茶会に興じる雰囲気から気分の良い感じに終わったのだとくらいは解る。


 ……リースベルの席の前だけ菓子が山盛りになってるとこは、見なかったことにしよう。


 最初の印象だと、食い意地は張ってても腹ペコキャラじゃなかったと思うんだが。何時の間にレベルアップしたんだろう?

 ……ああいや、見なかった 見なかった。


 今日の女子会はフラウのホスト役を俺が代行した形なので、招いた時にライレーネ達とは顔合わせをしている。フラウに対しては気安い友人な態度になる反面、俺への態度は特に変わってないと思う。

 ライレーネからの敵意が消えただけでも良い状況なので、今は多くは望まない。リースベルに関しては、若干好感度は増してるかな? なんか俺に関する行動時には神兵の随伴が無くなったし、ゾンビ入りの甲冑がいなくなる機会はそれだけリースベルにとっての平和なんだろう。……主に買い食いフリーダムな状況に。


 で、そんな経緯を経ての再会なんだが、どうも反応が予想外。

 妙に注目を受けているというか……まぁ、視線は俺の手乗り魔物ラト・ミリーアなわけなのだが。

 フラウとライレーネは好奇心。リースベルはやや警戒心。やっぱり育つ環境によって反応は違うな。


“ぷし、むー?”


 ラト・ミリーアの気の抜けた鳴き声。

 あ、三人共に雰囲気が緩くなったな。

 ま、ちょっと物騒な角が復活してるが、子ウサギな体型は愛玩動物そのものだしな。


 使い魔契約で俺には懐いたようだが、果たして他人に対しては……ああ、なんか大丈夫そうな感覚が返ってきた。

 どうやら俺との精神的な同調をしてるようで、俺の意識を反映した態度をとれるっぽいな。

 そんじゃ、愛玩動物として美少女達に愛でられるがよいぞ。


“ぷいー”


 ――うむ、ちゃんと了解の意志が返ってきた。


 茶会の席に途中参加し、ラト・ミリーアを生け贄に平穏に紅茶を嗜む時間を得た。

 ほんの1m先にはキャイキャイと姦しい空間があるとは思えない。

 ……ああ、そうそう。


「使い魔契約の魔術に関して、集められるだけの資料を」

「承りました」


 背後に控えるメイドの一人へ指示。

 数人が即気配を消したので、早けりゃ今夜にも何か解るだろう。


「……かわいい」

「この子が“ラト・ミリーア”ですの?」

「うーん、魔物じゃないけど、魔物なん?」


 フラウ達も簡単に説明をもらったようだな。

 とりあえず知った反応を返したライレーネに話を振るか。


「ラト・ミリーアを知ってるのか?」

「トリシア大魔導師の使い魔というくらいには、ですわね」


 人が多く暮らす都市部では魔物の発生が抑えられるのは、経験則的に知られた常識。

 俺の知らない話だったが、一応は常識。

 それでも時折湧いてくるのが、ラト・ミリーアという劣化した魔物のようなもの、ということだ。

 ラト・ミリーアは劣化した魔物を指す総称のようなもので、特定の種を指すものではない。が、王都ではアルミラージの系統が比較的多く、トリシア大魔導師が使い魔にしたことから代名詞的に扱われているというもの。


「使い魔というなら、ちゃんと“名付け”はした方が安全との事ですわ」

「ほう?」

「それで魔術士と使い魔の絆を深めたなど、トリシア様の逸話にあったと思いますの」

「なるほどなぁ」


 まぁ、定番と言えば定番なシステムか。

 安全性が高まるなら、しといた方が良いか。……と、フラウより妙に強い視線を感じる。


「名付け、したいのか?」

「……(こくん)!」


 全力の肯定の意志来ました。

 ラト・ミリーアを両手の平に乗せて、角が目に刺さるんじゃないかと心配になるくらい間近で見ていたフラウからの要望。

 これはちょっと予想外。フラウは可愛いもの好きだったと。


「ふむ、まあ良いか」


 会話の内容はラト・ミリーアにも伝わったらしく、別に反対する意志もこない。

 ライレーネの言った逸話に実質的な効果は無く、あくまで人の間に伝わる伝説な感じなのかもな。


 俺の了承を得たフラウは、しばらく手に乗せたラト・ミリーアと睨めっこ状態で唸ってたが、気に入った名を思いついたようで珍しくハッキリとした口調で宣言した。


「うん、“チャカ”!」


 俺を通じて伝わる名付けの儀式。

 形ばかりのものと思ってたんだが、何かが変質したのを俺は自覚し、それはラト・ミリーア――チャカにも同時に起きたらしい。


“ぷいー!”

“ちゃこんっ、パン!”


 チャカの鳴き声に続く妙な破裂音。そして――


“カシャン”と何かが割れた音。

 その発生源へと視線を向ければ……たぶん、あれは屋敷の窓ガラスが割れたのか?


 ……って、え?


 俺は破裂音がした時に、確かに見た。

 チャカの額の角が、その根元が破裂して勢いよく角を射出したという、その一瞬を。


“ちゃこんっ、ぷいー”


 ついで、まるで頭蓋の中から装填した感じに新たな角が伸びるのも。


「……随分と想定外な能力持ちなんだな、アルミラージって」

「いえ、アルミラージにそんな特殊能力はございません」


 速やかに入るメイドよりの訂正。

 いやー、正直、今はその訂正は欲しくなかった。

 じゃないと、また別の推測が危険じゃないか。


 まるで、拳銃チャカなんて“ピストル”みたいな名付けをしたから付いた能力なんじゃ? な推測をしちまった俺が悪い……とか。



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