三章:雑魚貴族、女難気味
01 学生らしい生活を
中間試験は日数の順延など少し予想外のトラブルを抱えたが、試験自体は無事に終わった。
今回は各自の実力を学院側が周知する意味合いが大きいので、あまり各人の成績を意識したものでもない。
以降に起きる変化としては、有能無能の格付けも済んだ事で、それに見合った人間関係が増えるといったところか。
〈ローズマリーの聖女〉に準じれば、聖女に対する恋人候補達からのアプローチが増え出すってのが具体的な感覚。
「……(ウザイン様)……」
後頭部にフラウシアの呆れる声が聞こえたので少し補足しよう。
試験内容に関し、俺の実技関係にちょっとした問題は……あった。
いやぁ、魔術ほど悪い話題が無いから一般枠の試験で済むと思ってたんだが……はい、無理でしたー。
普通に剣技の達人っぽい試験官を相手に殺陣をして、その内容を評価されて終わりなはずだったんだ。授業では見ない相手だったので、偏見の無い評価を下すための人員だったのかなーな感じで。
けどまぁ、結果から言えばこの試験官、よく知らんけど現役の近衛兵が派遣されて来たって流れで、それで俺の動きに妙な評価が下されたという……。
“貴様、その剣技は誰から習った!”とかもう、鬼の形相で迫られた。
聞けば俺の動きは近衛に配属されて始めて習うような特殊なもんだったというオチ。
言われて俺も気づいたよ。そういや、剣の家庭教師って近衛出身だったよな、と。
で、その人の名前を言ったらなんか本格的な殺陣が続き、他の学生を放ったらかしにしかけて他の試験官に怒られるという……。
半分以上冤罪なのだが、これでまた俺の悪評が増えた形に。
ウザイン・ナリキンバーク、順調に原作方向へ成長中。
破滅案件は全力で潰してるけどな。
で。
試験関係のゴタゴタで結局フラウシアとの約束は守れなかった。二日目以降は一緒に居ようという、なんとなく思春期の匂い醸すアレである。
武技関係は現役の近衛兵に目をつけられたから空いた時間を詰問責め。体術の試験も似たようなもんだった。試験官はまた別人だったが、やっぱり近衛関係者のようで俺の前情報が回ってたせい。
そのせいでフラウシアを放置する形になったのだが、偶然の産物か監視対象のライレーネやリースベルと一緒の行動になって親交は深まったらしい。
具体的に言うとメイド隊の総力をあげたお茶会攻勢。貴族生活にいまだ未練タラタラなライレーネが拒む理由も無く、欠食児童……もとい美味しいもの大好きなリースベルも以下同文。
その成果は、また二人、フラウ語に堪能な者が増えた事で説得力が半端ない。
しかしまぁ、時間は有限。
フラウがライレーネたちとの時間を増やすと言うことは、俺との時間は反比例して減るってことだ。それを自覚すると何故かもの悲しい気分になったりもするんだけど、随分自分勝手な感傷だなぁと自戒してみる。
「……(くいくい)」
「ほいほい、今は買い物に集中、な」
「……(こくん)」
そんなわけで現在の俺は……フラウシアの買い物に付き合う荷物持ち、もしくは財布という役回り。
別にフラウ自身に強請られてというわけでも無いが、珍しくした約束を破った事への、解りやすい罪滅ぼしの形であった。
まぁ、どっちかってーと、俺の気分の問題の方が強い気もするけども。
さて買い物のメインになるのはアクセサリー関係をいろいろ。
すっかり忘れてた部分だが、中間試験が終わってから学生同士の交流が増えていく。“攻略”ではなく“交流”。
うん、完全にゲーム脳的な思考になっていた。
聖女攻略の舞台は、学生同士の交流の場が利用される流れが普通なんだよな。貴族の環境なんだから。
ついつい、学内の何処かでナンパかましてくる連中を警戒しようって意識だったんだよ。
で、そっちの用意はメイド隊が準備万端、フラウを着飾ろうと準備済みなんだが……どうもこう、内心でライレーネ達への申し訳なさをもってたらしい。
もう見た目は貴族社会に染め済みのフラウシアだが、彼女の出自は平民以下の難民だ。それが友人関係になったライレーネとリースベル二人の境遇と比べ、異常に好待遇なんだと改めて自覚したらしいのである。
そして彼女の出した結論は、三人とも程度を合わせた着飾りに抑えたいというものだ。
もっとも、そこで問題が一つ。
フラウシアの立場としては、着飾るのも彼女の意志より、俺の意志が優先というやつ。
言い方は悪いが、フラウの外見は俺の実家の広告塔な扱いだと……まぁ当人も知ってるわけだ。
メイド隊の緻密な誘導尋問によりフラウのそんな葛藤は明け透けに報告されていて、ならば妥協できる程度のアクセサリーを調達するべ、となったのが表向きの理由。
裏の理由としては、この機に大量の……それこそフラウも把握できないくらいの大量な数を用意して、それを友人達へ貸すイベントでも起こしてやろう、なやつ。
学内の交流イベントでは貴族オンリーな舞踏会的なものの他に、平民も混ざれる感じの小パーティも開かれる。
参加者全員がパーティ用の準備ができてるなんて事は無いので、そこは親しい者同士の物の貸しあいも普通の行為なんだというのがメイド隊情報にあった。で、格は低くても成金で物は持ってる俺をパトロンにしたフラウが貸し出し先になるぶんには、別に問題も無かろうって小細工である。
これが平民同士、貴族同士ってなら変な確執も生みかねないが、いくら利用しても罪悪感を感じないでいいっぽいクズ貴族が相手となれば話は別だろう。
むしろライレーネとリースベルにフラウへの依存度が増えるならなお良し。聖女候補には敵対より友好なのがこっちにも好ましいし。
でで、さらに裏の裏の話としては。
アクセサリーを用意するついでにドレスなんかも準備する。こればかりは貸すにしても各人調整は必須なものだ。その担当は当然、メイド隊に担当させる。
くくくく。
これでライレーネとリースベルの個人情報の収集もしやすくなるぜ、というものだ。
ああ、一応注意しとくが、個人情報とは言っても聖女の能力関係に限るぞ。
女子的にいろいろマスクしなきゃなデータ関連は記録はしても俺に上げるな、とは厳命してある。
……その辺りのデータは下手に知ってると何処かでボロ出して不興って展開がテンプレだしな。
知らん情報ならば地雷を踏む懸念も無い。
というか、お互いにまだ14歳のガキ同士だ。その外見に知りたい欲求の本能が滾る要素も薄い……もとい少ないので、今は無邪気さを醸すくらいが無難なのである。
「……(じー……)」
……うん、やましい部分は……無いとは言わんが健全な方向に偏ってるぞ。
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