41 中間試験 初日終了

「齢14にて厳しい世の理を体感したウザイン。少々嫉妬してしまいますね」


 俺の自分語りを聞いたリリィティア様の感想。

 何処か観点がズレてる気がするのは、気のせいかな?


「嫉妬も何も、リリィティア様のお立場なら出遭う必要すら無い些事でしょう。むしろ我らを使う際に、そういった手間も起きると憶えられたなら、御身の未来の配下も幸せでしょう」


 可能性の未来として、聖女最大の敵となる悪役令嬢は学生編の次は内乱の旗頭として動き、下位貴族を部下を使い捨ての道具に使ったりもするしね。


 彼女は現状王太子の婚約者という立場だが、正確には、現・王太子のヒースクラフトの婚約者とイコールでは無いってとこが面倒臭い。

 普通、王太子となれば次の国王に決定、もしくは内定って立場のはずなんだが……今の国王様、色ボケ極まって王子と王女は二桁居るから確定する意味が薄いんだよ。

 確か設定上の話だけれど、ヒースクラフトが王太子に指定されたのは六番目。上の五名は病死や辞退、行方不明と胡散臭い理由で消えていっている。

 いまだ現王の退陣予定も無いし、次代を決める必要性も少ないと、次の派閥人事だけを想定した配置の結果が、リリィティア様の微妙な立ち位置だったりする。

 要するに、彼女の王妃候補だけは確定してる的な。


 ……えーっと、ヒースクラフトとリリィティア様の関係も作中で結構変化してたよな。

 最初は婚約者を聖女に盗られそうになって暴れる嫉妬娘の感じが、後から貴族子女っぽさの追加で冷めた婚約関係になり、嫉妬というよりは男を横取りされた女のプライドからの行為にすり代わったり……な感じに。

 これも〈ローズマリーの聖女〉がシェア作品で、複数の作者が関係した影響だったか。

 ゲーム版だと、それら要素を平均的にミックスした雰囲気で、婚約者寝取られ女というよりは貴族社会の破壊者な聖女と対立する印象が強かった。

 実際、聖女の恋人候補が確定するに従い、リリィティア様の未来の旦那も変化する。大概は恋人候補の敵対関係な立場の男だな。最悪はこの国の最大敵国の王様だっけ。偽王を立てた国は国に非ずと、国外追放されたリリィティア様を娶り、我こそは正統な後継者と攻め入って来る。現代兵器のようなSF軍隊を使ってくる難易度ヘルな展開だった。


 ……ただまぁ、もうこの記憶が何処まで通じるか怪しいと感じてるんだが。


 正直のところ、所々〈ローズマリーの聖女〉を思わせる要素はあるが、それを下敷きにした二次創作の世界なんじゃな気分でもある。

 トラブル要素含み、自分の記憶通りに進むとこにすら安堵を感じるのが……なんとなくヤバい。

 その一番大きな部分が、リリィティア様の外見の設定だなー。

 キャラの見た目や行動の端々、既にちょい崩壊気味だが、まだ原形が残ってるので懐かしい。

 対して恋人候補達の変貌はな。まだ全員の確認はしてないが、出遭った分の変化に原形成分が微少過ぎる。


 主人公視点でなら、ヒロインとなる恋人候補は美化表現の凜々しさに満ちてるヅカ男優に留まってるのだ。しかし、聖女との接触を妨害しようと工作した結果か、彼らのヘタレな部分ばかりが記憶に残る。ある意味、男子学生同士の飾らない印象が強いと好意的な見方をしても良いんだか……、身内の女に振り回される哀愁ばっかが大きいと……なぁ。



 そろそろ、現実に戻ろうか。


 脳裏でそんな回想をしてるうちでも、リリィティア様との会話は続けている。

 互いに貴族っぽく、自分のボロを出さないようになフワッとした世間話の応酬だ。

 概要だけを抽出するなら、向こうは“俺に興味があるから直下の配下になれ”というもの。対して俺は、“派閥が違うので諦めろ”というもの。

 いかに学院が貴族社会をある程度無視できる環境とはいえ、同格扱いの寄親との縁は切れませんがな。これが、俺が実家と縁切り可能な立場の子ならいざ知らず。これでも嫡男、次期ナリキンバークの当主扱いなのだ。

 さすがに無理っすよ、リリィティア様。


 ……俺の記憶のウザインならば、まぁ、あっさり下っ端に参加するんだけどね。


 でも無理だ。俺個人としても多少なり実家の運営とか知っちゃってるし。

 次いでもっと個人的に。

 リリィティア様の猟奇な……もとい高貴なご趣味には芯から賛同できる覚悟無き我が所存。

 俺の外道は妥協の産物なんで。ハイ、スンマセン。


 現状、聖女がこの世界の勝ち組とは断定し辛いが、ならばリリィティア様代表の貴族組がとも言い難し。

 であれば、俺個人の破滅回避のため、まだまだコウモリ野郎の立場を維持させてもらいます故。



 それからしばらくして。

 学内諸々の調査も済んだのか、学生達に通達が届く。

 初級以外の中間試験は四日ほど中断。その間に再開への準備を進めるというもの。

 おそらくは、学内のダンジョンを調査するのにそれだけの時間が必要という事らしいな。


 俺としては、一応は魔術の試験は完了した形なので別に困らない。

 俺関係の人材も同じだな。

 フラウシア達は明日から武技関係を受けるから、それに付き合うのが俺の予定になるだろう。


「…………っ!」

「はいはい。ちゃんと付き合うから、あんまり力まず、普段通りの動きで行くように」


 フラウシアは今日のようにドタキャンじみた別行動にならない事を喜んでいる。

 彼女の特異性から、こういう立場も想定はしてた。が、ここまで俺にベッタリじゃなく、少しは自主性のある生活を願うのは、贅沢なのだろうか?


 いやまぁ……。フラウを俺の都合の良い聖女に誘導してるのは確かなんだけどね。


 ライレーネやリースベルは、よく解らん。

 接点はあったし、済し崩し的に身近には居るが、その過程が解らなすぎて把握不能だ。

 良好な関係にするも、一歩引いた関係にするも、まったく情報が足りていない。


 解ってる部分としては、廃棄済みの貧乏貴族と万年欠食少女くらい。

 やれるとしたら……餌付けか。

 飴と肉で調教くらいか。

 ……ちょい字面が違う気がするが、まぁ、気にしない。


 最後に、御自分の望む結果に結ばす、やや不満げな悪役令嬢リリィティア様。


 この場は引き下がった。

 けど、諦めてくれたという印象は、まるで無し。

 さて、どーしたもんやら、だねぇ。

 癇癪起こさないでくれたってとこは安心要素なんだけど。



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