09 惨状・その1 (※今年分の投稿は明日まで)
「……ウザイン様……やりすぎ」
「…はい、すいません」
VS・ライレーネ戦、完勝。
全部の属性にて甲冑人形を、た・く・さ・ん・こ・わ・し・た。
アイテムボックスにミスリルインゴットも大量入手。
そしてライレーネ・ステンドラは……ガン泣き中。
その元凶たる俺とセットの絵面に、周囲の視線はドン引き一色である。
その中で唯一、俺の側に立って状況を見ていたフラウシアにしても、流石に俺の所業は擁護できないもんだったらしい。
そんなわけで、珍しくフラウからのお叱りの言葉を頂いた。
それでもフラウの生声だ。実に尊い。
ああ、聖女対決モードは無事終了したよ。
ダイジェストでお送りすると。
水・氷属性で圧壊プレスのミスリル板金大量加工。
土属性で散弾穴だらけのシースルー甲冑祭り。
風属性は何故真空断層で金属が輪切りにできるか知らんけど、それで。
闇属性は物理破壊の乏しい属性だが、腐食効果は可能なのでサビにて赤い砂山を築いた。
ラストの光・聖属性で、神殿が言う神罰の代名詞扱いな一般枠唯一の攻撃系魔術〈
どうやら、俺の披露したものは、軒並みライレーネはまだ使えないやつだったらしい。
みるみる瞳から光を無くし、最後には全力で無力感に苛まれる姿を見たらバーのゲージも大減少で一気にゼロになった。
「これたぶん、勝負の内容より聖女の無様っぷりが判定基準なんかね? もしくは、その様子を眺めてた俺の気分とか?」
「むう。……ウザイン様」
「あ、はい。反省します反省した」
ふむ、小さな大発見。
フラウシアの生声はお小言の際に増える。
今後はそういつたシチュエーションを増やした方が良いのだろうか。いやしかし、それでフラウシアの感性が偏るのも困るか。
……悩ましい問題だな。
ちなみに、〈聖雷〉はフラウシアも使える。威力は俺の三割にも満たないが、通常の魔物なら燃やせるだろうし、アンデッド系は即死だ。
この世界の聖属性がアンデッド特攻ってのは、地球のゲーム的概念でいう共通のもんらしい。
……さて、そして聖女イベントも無事真逆の結果に落とし込んだ。これで破滅ルートへの進行も防げたか、もしくは何か別のルートになるのかと思ったんだが……。
「なんかこう、どこか既視感のある展開になってるような?」
さっきも言ったが周囲ドン引きの状況である。
そして、より正確に言えば女子生徒を虐め抜いたド外道野郎といった見た目を生む状況である。
……うん、こりゃまさしく、ウザインが正しく評価されてる状況だよな。ゲーム的に。
「そっかー……、本当にやり過ぎた、かな」
「……(こくんこくん!)」
たぶん、俺の意識に衝動補正がなきゃ対決モードはもう少し理性的にやれたと思う。
これでもガキの頃から大人(?)の視点で気配り行動はしてたのだし。
むしろ、その懸念があったからあんな強制モードが発生したんかなぁ?
……謎は深まる。
「うっ……ううっ、こんなの……」
おやん?
「こんなの、認めませんわ!」
あ、復活した。
「聖なる魔術は神殿の秘術! それを一介の、品性下劣の者が使えるなんてっ、何かの間違いで――」
「聖属性は適性があれば誰でも使える。秘術でもなんでもないぞ。むしろ秘術というなら、その神殿に属して使える特殊神聖魔術だろうに。あれはさすがに俺は使えんし」
妄言を言い始めたので食い気味に訂正を入れておく。
そして俺の弱みっぽい情報を混ぜて強制的にこっちに意識を向けさせた……後に追い打ち。
「でもフラウシアは使えるな。豊穣神ユタンの恩恵の印、ほら」
フラウシアとの上下関係は確立済みで、明確に指示する事には彼女は基本的に従順だ。俺の指さし指示で甲冑人形に魔術を撃ての合図をフラウは正確に読み取って――
「……ユタンの印、此処に在れ。其は天上の庭なり〈
豊穣神ユタン特殊神聖魔術〈聖命の領域〉。
これはゲーム解釈で見た事はある。内容はバリアのようなもので味方を聖域に包みあらゆるダメージを一定時間無効化する。
ゲーム時代には聖女の使う強力な防御魔法という解釈で、恋人候補を守る盾として機能していた。また、その時には各神殿という区別の無かったものでもある。
おそらく、この世界だと聖女の使う魔法は各神殿に一部づつ継承されているな感じだと想像している。
例えば、麗光神カレスの場合は高位アンデッドでも瞬殺判定を出せる単体浄化魔法の〈
……と、フラウの詠唱に合わせて甲冑人形を中心に円型の草原が生まれる。範囲は直系3mくらいか。円の縁を小さな白、桃、紫の花を咲かせたローズマリーが囲い、騎士のオブジェを彩る花壇のようになる。
が、それも一瞬。
今度は中心から若木が何本も甲冑人形を覆うように成長し、伸びていき、あっという間に囲いこんで埋めてしまい――
「え?」
――融合し、捻れた一本の大木に化けた木の中でバキミシゴキグシャと物騒な音が聞こえるんですが?
「あれ、〈聖命の領域〉って防護魔法もとい魔術のはず……なんだけど」
なんだっ、この殺意の高い状況は?
「……っ!」
「え? あの領域での異物は容赦なく締める?」
いや絞めてるな、まるで雑巾を絞る感じに。
あー、なるほど。フラウ解釈で味方の居る場所に使えば防護の効果。対して敵認定を閉じ込める形で使えば、ああいった嵌め殺しの状態になる……と。
なるほどなるほど。
俺は単に聖女の格を見せつける意味で使えって指示のつもりだったんだが、フラウは的当て射撃での“攻撃”と解釈して使ったわけだ。俺が“的を指差した”意味で。
「……そうかそうか、フラウは凄いな。状況判断、バッチリダー」
「……っ!(にへら)」
俺は部下を褒めて育てる主義です。
メイド部隊いわく、フラウシアには褒め殺しの懸念もあるとか言われるが、そんなこたーない。たぶん。
ともあれ、これが致命傷だったらしい。
ライレーネ・ステンドラ、轟沈。
真っ白になっています。
撃てないんだろうなー、特殊神聖魔法。いや魔術かも知らんが。
解ってたけど。
フラウシアの修練観察で、〈聖雷〉が使えるようになってかなり時間が経ってから使えるようになってたからな、〈聖命の領域〉。その〈聖雷〉すら撃てないライレーネにゃ最初から無理な話だろう。
「これも多分、MPの総量値が関係してんのかな?」
「……?」
これで都合良く実技の授業が終われば物語としてのテンポは良いと思うんだが、ここは現実、そうもいかんようで。
というか、俺とライレーネ合わせて10分くらいしか使っていない。
もう一度言おう。今は魔術の実技の授業中だ。他の学生諸君も修練に励まないとだろう?
いや、無理があるのは承知の上で。
それでも、ようやく騒ぎも終わったと判断した……今まで完全に空気だった教師の指示で他の学生も動き出す。真っ白の灰になったライレーネの居る場所を避ける形で。
さて、俺は……もう実技の必要は無さげな気もする。
というか、これ以上甲冑人形を壊したら怒られそうな気がする。
ぎこちなさ付きでやっと普通の授業風景になった場所から静かに退場、授業が終わるまで、すみっこで一休みしよう。
当然のように着いて来るフラウシアに誰も関心は向けない。一応は魔術の披露もしてるし、大丈夫だろ。
そっと。決闘騒ぎで煙に巻いた先輩方の死角へと隠れるように。退場退場。
……あ、呆然人形だったのから回復したか、ブレイクン先輩。
一拍遅れてこちらも回復、メルビアス先輩。
二人揃って周囲を見回し、こっちをロックオン。
「……っち、授業が終わってりゃ逃げれたのに」
どうやらこっちのトラブルはまだ継続中らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます