18 試行錯誤

 魔道具の作成自体は、まぁ、なんとなく出来ると思っている。

 要するに魔法効果を発揮する道具だ。

 そういった意味じゃ、俺はすでに〈神珠液〉を作っている。

 薬剤であり消耗品でもあるが、効果の意味合いじゃ同じだ。


 ただ、“なんとなく”であり、確証を持てない理由。それは……


「あ、やっぱなぁ~……」


 お試しのつもりで、適当なアクセサリーに付与してみた。

 テストであるので、効果は予定していた感電の効果だ。

 で、地下牢の動物実験での結果は……


 ……うん、黒焦げは無いわ。


 いやま、対象の魔法が攻撃系ってとこで予想してたんだ。なんとなく。

 やっぱり発動効果は殺しにいくやつだった。シンプルシンプル。


 鼓動の再開が目的なのに炭化させてどうするな話なので、付与するものの選定が大事だと思い知る。


「筋肉の運動は電気操作に反応する。それはこの世界の生命も同じ。……まぁ、多分、同じ」


 生命の動作の要因は地球の概念で言えば他に化学変化もあるが、そう知っていても理解は全くできていない。地球での俺、せいぜい雑学の知識が多い程度の一般人……だと思う。理解し難い専門知識が山程あって、地球の文化は成り立っていたくらいにしか理解してないのだ。


「その上でこっちの世界、魔法があるもんなぁ」


 魔物の特性は動物に似ていても明らかに違う。

 その特性に対抗するための人の技術も、人智を越えた要素が多い。

 俺の中の物理法則とか、思い出して三ヶ月もしないうちに崩壊した。


「まぁ、電気に拘らずに微弱な感電と同じような現象が可能なものを見つけないと、俺の求める形にはならないよな」




 ◆




 そんなこんなでの試行錯誤で見つけたのがこれ。

〈水属性〉→〈状態異常魔術〉→〈悪魔の水ワームズ〉。


 基本効果は皮膚の下に何かが這いずり回るような感覚を生み、相手の行動を阻害するもの。

 何と言うか、体感は正に寄生虫の宿主と化したかの効果で怖気半端無し。

 現象的には闇属性としか思えないが、水属性なんだよな。魔法的な作用としては、相手の血の一部を支配し、血流とは違う動きをさせるものになる。


 脳の血管が対象とか使い道次第じゃ非常にヤバいものだが、一般的な魔術士の技量じゃ皮膚内部の毛細血管の血しか作用しないらしい。

 これをまぁ、動作箇所を心臓付近の動脈に。鼓動のリズムの再現でと。いろいろ調整してみたら上手くいった感じになる。魔法の威力を上げる方向の補助魔術が存在したのは楽で良かった。


 これを当初予定してた心臓が止まったのを起動条件にするものと組み合わせ、魔術の過剰行使でHP全損からの蘇生用魔道具(プロトタイプ)は完成した。


「この機構だと、別の死亡要因での蘇生効果も期待できるかな?」


 複数の魔術を付与した複合効果での機能だ。

 人の身体の原形を残した死亡状態なら、結構高い確率で蘇生が期待できるような気はする。


「まぁ、今は子供たちの安全確保が優先だけど」


 ……考えてみると、少し不思議な感覚だ。

 俺の知る設定ではウザインは貴族のプライドに敏感で、スラムや下層の人間への嫌悪が半端ない。元とはいえ難民だってその対象だろう。

 その直接の原因は……たぶん俺の記憶が出た時の暗殺未遂事件。

 自分が殺されそうになれば、そういう意識になるのも当然だろう。

 親や実家じゃそういった層の人材が主力を務めていても、殺されかけた恨みは早々消えないだろうからな。


 だがまぁ、今の俺にはその時の記憶や感情が希薄だ。

 俺が覚醒したインパクトが強くて、代わりにそっちの感情が飛んだのかもしれないな。


 ウザインとして、貴族の感性は今もある。

 今の社会を維持するのには支配層である貴族の命は価値あるものだし、そのために下層民の犠牲が必要なら容赦なく使う。

 大人や子供で区別するものじゃない。存在としての階級として区別するものだ。


「不思議と、地球の人間のものも共存してるんだよな」


 別に地球の人間全てが子供を慈しむというわけじゃない。

 むしろ、弱い立場の子供を蹂躙するのが楽しいってのもいるはずだ。


「俺の場合は、そうだったって事なんだろうがなぁ」


 だが、全ての子供を守りたい精神じゃないってのは……なんとなく自覚している。


「せめて幼女限定の守護者な“紳士”の類いじゃないとは思いたい」


 実のところ、今の俺はウザインとしてアヤフヤなのと同じくらいに、“俺”としても、自覚できる部分がまだまだ未知数なのである。



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