13 取捨選別

 危険度の高い魔物の集団の処理は終えた。

 後は森に点在する単独もしくは数個体の魔物共を一定数討伐して、今回の任務は終了する。

 魔物を根絶やしという事はしない。あれらは隣国に対してのこの森の防衛機構の一部でもあるのだ。

 まだ難民を付け狙う魔物も居るかもしれないが、数が驚異でなければ都度の対処でも事足りる。


 今回の任務では俺も砦に泊まり、こういった事態の流れを経験するのも仕事の一つだ。貴族の子として初めての経験でもあるのだから、立派な箔付けって事になるんだろう。

 ……と言っても、何故か俺の中には“出張三昧で自宅に二ヶ月帰ってない”的な記憶があるんだがな。

 まぁ、なんだ。この程度の外泊じゃ心が揺れない程度の意識はある。

 それだけだ。

 出張先がド田舎の豪雪地帯。到着日の連絡不備で泊まり先の準備無し。素泊まりの空きすら無し。ネカフェなど存在すら無し。結局一晩、路肩で雪に塗れて凍死の眠りと戦った記憶に比べれば……。

 ……なんつー記憶を思い出すかな、俺。


 まぁとにかく。今は何をするにも快適だ。

 貴族バンザイ。成金だろうが悪役だろうが没落予定だろうが今は幸せ。

 それでいい。


「……と、そうだ。難民の身元チェックが必要だったんだ」


 予定では、明日の午前中に避難してる難民たちの前に顔出してお終い。

 親父的には、将来の支配者の顔を憶えさせる程度のものなのだろう。

 ただ俺としては、潜在中のスパイを見つけられる機会は逃したくない。貴族と難民、こうして対面するタイミングなど早々無いはずだし。


 というわけで、難民が集まっている場所を確認できるとこを聞く。

 別に面と向かって会う必要は無いのだ。観察さえ出来ればいい。

 案内された場所は砦の外壁上部。見張り台の下の簡易休憩の部屋。眼下には外壁に貼り付くように簡易の柵で区切った一角があり、移送予定の難民は全員集められていた。


 護衛役には、しばらく難民の様子を観察すると退席させ、この休憩室を占領させてもらう。

 魔法の行使は魔術ほど派手じゃないので誰が傍に居ても問題無いっちゃ無いんだが、それでも長々と難民を凝視し続ける状況は異常だろう。

 特に貴族が、難民を見る姿勢としては。

 大概は邪推すると思う。また貴族が常人には理解不能な変態プレイの準備をしてる……とか。


 見れば、難民の中には年頃の女性も結構いる。タッチ即アウトな感じの少女もいる。

 しかも、成りは汚れていても中々に美人さんも多いようで。

 うん、ゲスな貴族の視界に入れちゃダメなパターンだな。


「……あ、いや。俺も今は10歳なわけで。そういったオッサン制限は無いのか」


 年増スキーの少年貴族ってパターンはどうなんだろう?

 何時までもママが恋しい的な?

 ……うん、なんか自分で自分に精神攻撃をしてる感じだ。


 気を取り直して。

〈害意探知〉で敵対意識を持つ者を選別していく。

 先程の救助行動が良かったのか、案外と少ない。

 大雑把に見て500人ほどの中に数人か。となると結構高い確率で……ああやっぱり。スパイ発見。

 こんな状況に置かれても仕事優先か。居るとこには居るんだな。

〈思考掌握〉で難民たちから分離。人気の無い場所に集め、呼んだ兵に連行してくるよう指示を出す。持ってる情報は洗い浚い吐いてもらって処分はその後に決めよう。


 後は、そうだな……。


 難民観察も終えて再び着いてきた護衛に質問。


「ああ、少し質問だ。昼間のオークの回収はどうなった?」

「はい、回収解体は冒険者たちに任せ、換金率の良い物は当人たちに処分を、日持ちし難い素材は砦が買い取り保存庫に入れてます」

「だろうな。連中の拘束期間はもう少し延びそうだし」


 日持ちし難い素材、つまり、オークの肉類だ。こういった砦には食料を長期保存しておける設備があるので、魔物素材の生もの類はうちが現場で買い取る予定になっていた。


「じゃあ、現状買い取った肉の半分を俺の名義で放出してくれ。あと砦の備蓄で塩と野菜類を出せる程度でいい。これも俺の名義で。使った分は記録しとけ。備蓄の補充は明日、領都に帰ったら手配しよう」


 どうせ貴族の箔付けをするなら良い貴族を演出しよう。

 俺に仕えたら腹一杯食える生活を送れる。

 難民ならこの程度でも充分だ。


「今夜は難民に施しをする。肉、野菜、塩。全部鍋にぶち込んで煮るだけでいい。ただし量をケチるなよ」


 鍋の基本は具が溢れる程に。


「ああ、アク取りは忘れずにな!」



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