14 世知辛い…世知辛い

 くくくっ、目論見どおり。

 いやまぁ、別に食い物に邪悪な成分は注入してないが。

 晩飯と同じメニューで朝飯も続き、どうせ冒険者が活動するうちは肉類の買い取りも続けるのだろうから、難民を移送するまでは同じ工程で施すように指示しておいた。

 おかげでまぁ、俺の好印象は絶好調らしい。


 因みに難民500人の一食分の経費。俺の予想よりやや低めで落ちた。

 やっぱ日常に使う食料を輸入に頼るとかアホな国家運営をできない文化レベルの食糧事情。実情がどうあれ、安価で安定させてるのが基本らしい。


 さて、実のところ貴族の小倅に実家の資金を自由に使う権限など無いのだが、一応、内々に、“これこれこの程度までは”的な金額は聞いているのだ。

 その範疇には収る範囲だったので、後は帰還後に親父に報告すればいい話になる。

 請求書兼、経費報告書のようなものも用意した。ちゃんと。


「……でもまぁ、自前の資金も準備しといた方が良いのかなぁ」


 ファンタジーな世界だと、不思議と謎な展開で無限の金が湧いて出るのが、ホントに不思議。

 特に凄いのが、稀少扱いの“白金貨”とやらが湯水の如く集まる不思議。


 この世界でもその不思議貨幣はあるらしいが、使われるのは国同士で大金が動いた時だけらしい。国家事業とか、そういったレベルで。

 実態としては、金額を記した契約書のみ。魔術的な制約はあるそうなので紙クズに化ける心配は無いらしい。


 さて、そんな愚痴が出るのはこの世界の金稼ぎが意外にシビアだという事実。

 金貨を沢山持ってれば、すなわち金持ちという立場は通じない事もある。

 要するに、“貨幣という形での財産”には、その貨幣を使用できる社会での認知と信用も大事なのだ。

 強盗や詐欺、もっと露骨に見破れない偽金で得た財産と見做されれば、即犯罪者。

 そうならないためには、財産を得た取引の記録が要るのである。


 ……この面倒さが、俺個人の資金集めのネックでもあるのだよな。


 ああっ、もっとファンタジーな世界を。


「堅実なのは、金になる資材を自前で調達する。この世界だとその代表が冒険者だな」


 農家や狩人は対象にできない。

 彼等が活動する土地は大概が貴族の領地内だ。

 そこで得た物はちゃんとした買い取り手段を踏まないと、即不法収入。

 結構世知辛いのである。

 まぁ、自家消費や物々交換とかは見逃し対象だけど。


「冒険者をやるのも選択肢だけど、たぶん、俺の場合は許可下りないしなぁ」


 次男坊だけど跡取り候補。実のとこ長男は実家の商会方面の跡取りが決定してるので、直に家を継ぐ事は放棄してるらしい。

 ほら、商会のトップって意外と各地へ商談で動くから。領主として王都なり領地なりに拘束されがちの立場は無理なんだそうで。


 で、魔法の才能は発揮したものの、俺は10歳のガキだ。

 仮に冒険者としての活動ができても、貴族の立場で冒険者の業界を動くのは荒し行為と変わらないのだろうし。

 本当にまぁ、世知辛い。


「……俺に実現可能か解らんが……知識チート、やってみるか」


 そんな感じで、貯金関連に力を入れてみような俺である。



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