ヒール(悪役)ィング貴族生活 ~乙女ゲーム系異世界の主人公に蹴散らされ消える予定の雑魚貴族になりました。当然、そげな未来は全力で回避する所存です!~
がりごーり
一章:雑魚貴族、本編開始未満のアレコレ
01 転生したらしい
『ウザイン様っ、ウザイン様、お気を確かに!』
耳元で叫ばれるその声で意識が覚醒していく。
ただ、その声が自分の事を呼ぶものだという感覚は無い。
『賊を追えっ。それと治癒術士を早く! ウザイン様、ウザイン様ぁっ!』
その名が自分の事だという記憶はある。
あるんだが……、やはり自分の事と言う意識は無い。
というか、その何処か悪意の込められた珍妙な名前には、別の印象の記憶が強い。
現実じゃなくて、確かゲームかなんかでイヤミったらしく現れる典型的な無能な悪役貴族の……
「……あ、思い出した」
気づけば、俺は〈ローズマリーの聖女〉の登場人物になっていた。
それも、雑魚敵貴族の。
〈ローズマリーの聖女〉はとある同人ゲームから始まり、それが商品化され人気になった。
内容は聖女の資質を持つ主人公が様々な悪意からの災難を乗り越えていくなテンプレもの。人気の源泉となったのは、シナリオに複数の人が参加したリレー小説展開な作品という部分だ。
なんでも大学のサークル活動から始まったもので、先輩が作った導入部に後輩達がミニシナリオを追加していって長大な物語にしたらしい。
商品化の時点で10年分のシナリオになっており、時代で変化する表現を多少手直しした形で出した。で、その多様性ある展開が世間にウケて、俺もニワカな立場で嗜んだんだ。
ウザインってのは、そこで登場する悪役の一人。
聖女が学院に通うのに合わせて出た同級生悪役で、雑魚な事ばかりしては泣いて去って行く。
イタチが擬人化したようなヒョロ男で、見ようによっては愛嬌があるかもだが……結構賛否両論な評価だったと思う。
貧乏からスタートな聖女が成り上がって行くのに反比例して落ちぶれていくのが歴代の書き手に好まれて、中々に悲惨な道化人生だったと思う。
……って、俺がその立場だとか洒落になんないんだが!
◆
「持ち直されました。もうお命の心配はございません」
「残念ながら、賊には逃げられました」
「捜索の手は止めるな。行方か、手掛かりを探し、何としても下手人を捕らえろ!」
俺がウザインとして覚醒したのは、ウザインが何物かに襲撃されたショックかららしい。
背後から刃物で心臓をひと突き。結構ヤバい状況だった。
刃が急所から反れた事。刺さったままで出血が少なかった事で致命傷にはならなかったようだ。またお抱えの治癒術士の腕が良かったってのもあるか。
「ああ、そういえば。そんな裏設定的なもんもあったな」
ウザインは聖女に対して雑魚な妨害行為ばかりするが、それに多彩な魔術を用いる意外に高性能なやつだった。その理由というか、後付けの設定のような形でバックストーリーが存在したのだ。
“幼い頃に何物かに襲撃され魔術に目覚めた”
“襲撃の犯人はスラムの棄民だった”
“何かと棄民の肩をもつ聖女が気に入らなくて絡むようになった”
要約すればこんなもんだろう。
最初はただの噛ませ犬でも、長々と活躍(?)すると妙な設定が生えるってやつだ。
「それでも最終的には悲惨な末路ってやつだが」
最初は当人同士の確執だったが、途中からウザインの実家も巻き込む騒動になって没落。貴族としての全てを聖女に奪われて……最後は通り魔に刺されて死ぬだったかな。
「で……おおまかな状況はそんなもんとしてだ」
肝心の今がどの時代かが解らない。
傷は塞がったが、体力が尽きてるのか身体がろく動かずベッドで寝るしかないのが今の俺だ。
息子の有り様に怒り心頭の父親の様子。慌てふためきつつも必死に動き回る召使い達。ウザインとしての記憶にある彼等を何処か他人事のように観察してる自分。
というか、この状況を物語の一幕として観てる今の俺って、実は何物なのやらだ。
現代人。
日本人。
そんな意識はあるものの、俺個人の情報がさっぱり出てこない。
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