嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第８章 14 海の見える家

　着いた場所は海が良く見える場所に立ち並ぶ住宅街の1角だった。広い庭があり白い柵でおおわれた家は白い石造りの平屋建てで青い屋根が特徴的だった。窓はアーチ形で日差しが取り入れられるように屋根の近くにも丸い窓が取り付けられている。

「まぁ…とても可愛らしい素敵な家だわ」

家の大きさはフィールズ家の屋敷とは比較できない程小さかったが、ノワールと2人で暮らすには十分すぎる広さだとヒルダは思った。

「これは確かに良い家だな。たった金貨1枚で借りられるなんて信じられない」

ノワールの言葉にヒルダは驚いた。伯爵令嬢として暮らしていた頃のヒルダには金銭感覚と言うものがまるで無かった。しかし、『ロータス』に移り住んでから、ようやく金銭感覚と言うものが身に着いたのだ。金貨1枚と言えばヒルダとカミラの生活費3か月分とほぼ同一金額だった。

「お気に召していただいて光栄です。では次は家の中をご案内致します」

男性社員が声を掛けて来た。

「ああ、頼む」

ノワールが返事をすると、男性は前に立って屋敷へと向かって歩いてい行く。その背中を追いながらヒルダは恐る恐る声を掛けた。

「あの…ノワール様、本当に宜しいのですか？」

「何がだ？」

「この家を借りる事です。一カ月のお家賃がまさか金貨1枚なんて…かなりお高いのではありませんか？」

「そうか？別にそれくらいの金額、どうって事は無い。とに角まずは中を見せて貰おう」

「はい」

そして2人は家の中へと入って行った。

玄関の扉を入ると広々とした廊下が目の前にあり、左右に廊下が広がっている。

「左右にそれぞれ個室があり、右側に台所とリビング。左側にはバスルームがあります」

ヒルダとノワールはまず個室を見て回った。2部屋ある個室は白い壁紙で、大きな出窓が2か所ついたとても日が差す部屋だった。リビング台所も今ヒルダが住んでいるアパートメントの2倍は大きく見えた。バスルームも広く、バスタブは足を延ばして入れる大きさだった。

（この大きさなら温かいお湯に浸かって足をマッサージできそうだわ）

ヒルダの頭の中ではすでにこの家で暮らす自分を想像してしまった。その反面、もしこの家を借りたとして、ノワールとはいつまで一緒に暮らしていいのだろか…と。

「ヒルダ。どうだ？この物件…気に入ったか？」

突如ノワールが声を掛けて来た。

「はい、気に入りましたが…本当にこのように高いお部屋をお借りするなんて…」

「別に気にする事は無い。家賃一カ月金貨1枚なんて俺の中では大した金額じゃないからな。それよりも要はヒルダが気に入るか気に入らないかだ。この家は個室が左右に分かれて、互いの居住空間が程よい距離だから2人で住むには都合が良い家だとは思わないか？」

確かにノワールの言う事はもっともだった。ヒルダとノワールは夫婦でも無ければ恋人同士でも無い、ただの同居人…ノワールにとっての居候の様なものだった。

「はい、そうですね」

ヒルダが頷くと早速エドガーは男性社員に言った。

「それではすぐに契約を結びたいのだが、いいか？」

「は、はい！それではすぐにお店へ戻りましょう」

こうして再びヒルダとノワールは不動産会社へ戻ることになった―。