第5章 23 頼りになる母
「ヒルダ、パーティー会場へは私と一緒に入りましょう」
不意にマーガレットが言った。
「はい、それは構いませんが…宜しいのですか?他のお客様達に挨拶に先に伺わなくても…」
ヒルダの問にマーガレットは首を振った。
「ええ、いいのよ。挨拶ならハリスとエドガーの2人に任せておけばいいのだから」
「ですが、お父様とお兄様は…今あまりうまくいっていないのですよね?」
「だからこそよ。それに一方的にエドガーをさけているのはハリスの方なのだから。むしろエドガーはきっかけを作って、何とかハリスとの距離を縮めたいと思っているのよ」
「そうなのですか…」
(お兄様は…やっぱり自分が養子ということで、とても気を使っていらっしゃるのね…)
ヒルダはエドガーの事が気の毒でならなかった。
「あら?どうしたの?ヒルダ…浮かない顔をして」
マーガレットがヒルダの様子に気付いて声を掛けてきた。
「いえ、何でもありません」
すると、マーガレットが以外な言葉を口にした。
「大丈夫よ、ヒルダ。貴女の事は私が守ってあげるから、堂々としていればいいのよ」
「え…?」
ヒルダには何のよく分からなかった。
「貴女の事を中にはあまり良く思わない領民達がいるけれども…ヒルダ。貴女は領主の娘であり、伯爵令嬢なのよ。誰にも…文句を言われる立場には無いのだから。何か言われたとしても、決して気にすることは無いのよ。貴女は少しも悪くはないのだから」
「お母様…」
マーガレットの言葉にヒルダは改めて自分の今の立場を理解した。ロータスで何気ない日常生活を過ごしていたので、忘れていた…いや、ほとぼりはさめただろうと思い込んでいたのだ。
(そうだったわ…。私は故郷では皆から嫌われている…その事を忘れていたわ)
その時、エドガーの言葉が脳裏をよぎった。
『駄目だ、ヒルダッ。お前は…パーティーが始まるまでは会場に入らないほうがいい』
あの台詞はエドガーがヒルダのことを心配しての事だったのだ。
「分かりました…。確かに私が早めにパーティー会場に入れば…その場の空気を壊してしまうかもしれませんよね?」
「ヒルダ、そんな事は…」
マーガレットは言いかけて、そこで言葉を切った。カウベリーは田舎で閉鎖的な町だ。また貧しさゆえか、卑屈な心を持つ領民達が多いのも確かであった。
「どうかしましたか?」
ヒルダはマーガレットを見た。
「いえ、何でも無いわ。兎に角、私と一緒に時間になったら、堂々と会場に入ればいいのよ」
「ありがとうございます、お母様」
そして思った。
(ルドルフ…貴方がここに今、生きていてくれたら…2人で一緒にパーティーに参加する事が出来たのに…)
だが、それはいくら望んでも不可能な事。
そしてヒルダは思った。
ルドルフにもう一度会いたい―と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます