第5章 21 2人の立場

「ごめんなさい、お兄様…」


ヒルダはエドガーの右手につかまりながら言った。背後ではハリスの刺すような視線を感じる。


「何故謝るんだ?」


「だって、お兄様はフィールズ家に来たばかりに辛い目に遭って…今ではこの屋敷で居場所も無いのではありませんか?」


「そんな事は気にするな。俺が…自分から望んでフィールズ家に養子に入ったのだから…」


しかし、エドガーは思った。アンナと結婚していれば…今のような状況になっていなかったのではないだろうかと。エドガーは未だに何故アンナが自分のもとから去っていったのか…その理由に気付いていなかったのだ。


「…」


ヒルダはそれ以上エドガーに掛ける言葉が見つからず無言で歩いていると、やがて部屋の前に到着した。


「…着いたよ。ヒルダ」


「はい…」


促され、ヒルダは部屋の扉に触れようとした時にエドガーの方を振り返ると言った。


「お兄様は、この後パーティーが始まるまでどうしているのですか?」


「俺はこの後、パーティに訪れるお客様達に挨拶をしなければならないから会場に戻るよ。ヒルダはロータスから来たばかりで疲れているだろうから、パーティーが始まるまでは部屋で休んでいるといい。始まったら呼びに来るよ」


エドガーは笑みを浮かべて言うが…その顔はどこか疲れ切っているように見えた。


(お父様によく思われていないのに、一緒にご挨拶をしなければならないなんて…きっと辛いはずだわ…)


そこでヒルダは言った。


「お兄様、私も一緒にお客様達にご挨拶する為にパーティー会場へ行きます」


するとエドガーは青ざめた。


「駄目だ、ヒルダッ。お前は…パーティーが始まるまでは会場に入らないほうがいい」


「何故ですか?」


「そ、それは…」


エドガーは心配していたのだ。このパーティーは招待客以外でも、カウベリーの領民で、16歳以上ならば誰でも参加できることになっている。元々はハリスが領民たちをねぎらう為に2年前から始めたパーティーなのであったが、年齢制限意外は誰でも参加可能となっているのだ。しかし、ある意味それは良識のない人々も集まるということでもあった。エドガーは毎年このパーティーに参加してはいたが必ずと言って良いほど、ヒルダの悪口を囁く領民達がいたのだ。エドガーはその会話を聞く度に、不快な気持ちになり、何度文句を言ってやろうかと思ったが、肝心のハリスは黙認している為、とても自分の口からは言い出せなかったのだ。


「お兄様…?」


ヒルダは首を傾げてエドガーを見る。


「い、いや。何でも無い。とりあえずお客様への挨拶は俺と父の仕事なんだ。だからヒルダはこの部屋でゆっく休んでいろ。分かったか?」


「…はい、分かりました…」


そこまで言われてしまえば、ヒルダは頷くしか出来なかった。


「それじゃ、また後でな」


エドガーはそれだけ言うと、ヒルダをその場に残して去って行った―。




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