嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第5章 16 残された2人

　ヒルダとノワールがカウベリー駅に降り立ち、改札へ向かうとそこにはエドガーが迎えに来ていた。エドガーの顔には驚愕の表情が浮かんでいる。

（お兄様！何故…そんなに驚いた目で私を見ているの…？）

「エドガー、出迎えありがとう」

ノワールは改札をくぐるとエドガーに声を掛けた。

「い、いらっしゃい。兄さん。それは出迎えをするのは当然だけど…何故ヒルダが一緒にいるんですか？」

エドガーはノワールの背後に立つヒルダをじっと見つめながら言った。

「あ、あの…私は…」

ヒルダは何と答えればよいかとっさに返答につまってしまった。するとノワールが言う。

「俺がここへ連れてきたんだ。行き先は今日告げたばかりだけどな」

「え？！な、何故そんな真似をっ？！」

エドガーは動揺しながらノワールに尋ねる。

「それは決まっているだろう？俺の代わりにクリスマスパーティーに参加してもらう為さ」

「「え？！」」

その言葉にヒルダとエドガーは同時に声をあげた。

「兄さん、それじゃ今夜は何処に泊まるつもりだったのですか？」

「ああ、もう駅前のホテルに宿泊予約を入れているからな。明日は観光案内をしてくれるか？」

ノワールは笑顔でエドガーに尋ねる。

「それは…俺の方は構いませんが…」

エドガーはチラリとヒルダを見た。一方のヒルダは気まずくて仕方がない。

（ノワール様は…最初からクリスマスパーティーに参加するつもりはなかったのね…？気まずいわ…。このまま汽車に乗ってロータスに帰りたいわ…）

「それじゃ、俺はもう行くからな。後はお前に任せるよ」

ノワールはそれだけ言うと、さっさと立ち去ってしまった。

「「…」」

気まずい雰囲気の中、取り残されてしまったヒルダとエドガー。うつむくヒルダにエドガーは声を掛けた。

「ヒルダ…兄さんが…迷惑を掛けたようですまない…」

「い、いいえ。で、でも…私、やっぱり帰ります」

（そうよ、やっぱりここへ来るべきでは無かったのだわ）

背を向けたヒルダにエドガーは言った。

「待ってくれヒルダッ！」

「！」

その言葉にヒルダは足を止める。

「た、頼む。ヒルダ…行かないでくれないか…」

懇願するようなエドガーの声にヒルダは振り向き…ハッとなった。エドガーは熱を持った視線でヒルダを見つめている。その視線には見覚えが合った。ヒルダはかつて同じ様な視線を向けられたことが合った。恋人であったルドルフに…。

そう、エドガーがヒルダを見る視線は…まさに自分に恋する視線だったのだ。

「お、お兄様…」

誰の目から見ても恋に焦がれる視線を向けられ、ヒルダは戸惑った。

「ヒルダ、折角4時間もかけて故郷へ帰って来たんだろう？それなのに帰るなんて、そんな寂しいこと言わないでくれないか？頼む…！きっと父も母もヒルダが来たことを知れば喜んで迎えてくれるはずだ。だからヒルダ…！」

必死で懇願するエドガーの頼みを断る事はヒルダには出来なかった。

「わ、分かりました…。お父様とお母様に…ご挨拶位するのは当然ですものね…」

ヒルダは思った。今夜一晩だけフィールズ家に泊まったら…明日早々にカウベリーを出発しようと―。