第2章 11 穏やかな夜
「あなた…ヒルダの様子はどうでしたか?」
リビングへ戻ってきたハリスにマーガレットは心配そうに声を掛けた。
「可哀想に…ルドルフからの手紙を読みながら泣いていたよ…」
ハリスはため息を付きながら椅子に座った。
「そうですか…」
マーガレットもその話を聞き、沈痛な表情を浮かべた。
「もう…ヒルダは誰も愛することが出来ないかも知れないわね…」
「ああ。そうかも知れない…だが、私はヒルダには誰かと将来一緒になって貰いたいと思っている。例えそこに愛が無くとも…」
それを聞いたマーガレットはハリスに激怒した。
「あなたっ!エドガーだけでなく…ヒルダまで政略結婚をさせるつもりですか?!あなたはとっくに気が付いていたのでしょう?エドガーがヒルダを愛していたということを…!」
「も、勿論…知っていたさ。知っているからこそ…ヒルダから引き離したのだ。ヒルだとエドガーの結婚では何の意味もなさないじゃないか?有力貴族と結婚し、資金援助をしてもらわなければ領民たちの暮らしは圧迫される一方だからな」
「けれど、その領民達はヒルダをよく思っていないのですよ?そのせいでヒルダは故郷に帰ってきても固みの狭い思いをして過ごしていると言うのが分からないのですかっ?!」
「マーガレット、落ち着きなさい。また体調が悪くなったらどうするのだ?」
ハリスはオロオロしながらマーガレットをなだめた。
「もう…知りませんっ!」
マーガレットは立ち上がるとリビングを出ていこうとする。
「お、おい?マーガレット。一体何処へ行くつもりなのだ?」
「あなたのいないところです!」
それだけ言い残すとマーガレットは部屋を出ていってしまった。
「マーガレット…」
後にはただ1人、呆然としたハリスが取り残されるだけだった―。
****
その日の夕食の席―
テーブルの上にはヒルダの好きな料理ばかりが並べられていた。トマトのスープ、フライドエッグ、ミートソースのグラタンにポテトとチーズのガレット…等々。
「あの…お母様」
「何かしら?ヒルダ」
「お父様はどうされたのですか?」
「ええ、お父様は今夜はエレノアのお父様とお食事会に呼ばれて行ってるわ」
「お母様は行かなくて良かったのですか?」
「ええ、貴女がいるのだもの。エレノアの家族と食事よりもヒルダ…貴女と過ごした方がよほど有意義だわ。大体…明日にはもう『ロータス』に帰ってしまうのでしょう?」
マーガレットが寂しげに言う。
「はい…アルバイトがありますので」
「確か整形外科の診療所でアルバイトをしていたのよね?」
「はい」
「どう?そこで働いてる人達は?」
「皆良い人たちばかりで、働きやすい職場です」
「そうなのね?」
「アレン先生には大学に通うようになっても…出来ればアルバイトを続けて貰いたいとお願いされています」
「そう…アレン先生ね…良い先生なのね」
「はい、とても良い先生です」
こうして、母と娘の穏やかな夜は更けていった―。
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