第1章 8 出迎え

 ヒルダとカミラは『カウベリー』行きの汽車に揺られていた。2人で向い合せで座っているとカミラが声を掛けてきた。


「ヒルダ様、ナッツとドライフルーツは如何ですか?」


ドライフルーツとナッツが入ったセロファンの包みをカミラが差し出してきた。


「ありがとう」


ヒルダは受け取ると、そっとセロファンの包みを開くと中からヒルダの好きないちじく、アップル、カウベリーにナッツが現れた。


「まぁ…とても美味しそう」


ヒルダは笑みを浮かべて、さっそくイチジクのドライフルーツを口に入れた。途端に甘い味が口の中に広がり、イチジクの香りが鼻腔をくすぐる。


「フフ…美味しい」


そんなヒルダを見ながらカミラが言った。


「ヒルダ様は本当にドライフルーツがお好きですね」


「ええ。とっても甘くて美味しいから持ち歩くおやつに最適だわ。カミラも一緒に食べましょうよ」


「はい、頂きます」


カミラもセロファンの包みを取り出し、中身を開くとドライフルーツを口に入れた。


「本当に美味しいですね」


「ええ」


そしてヒルダとカミラはドライフルーツを食べながら故郷の話に花を咲かせた―。



****



午後2時―


ヒルダとカミラは駅に降り立った。


「ヒルダ様。荷物をお持ちしましょうか?」


カミラがヒルダの足を気づかって声を掛けてきた。


「いいえ、大丈夫よ。これくらい1人で持てるから」


ヒルダはルドルフを失ってからは足が不自由だからと言って人を頼るのはやめようと考えていたのだ。それは恐らく、この先自分はずっと1人で生きていくことになるだろうとの覚悟の上での事だった。


「分かりました。でも辛いときはいつでも申し出て下さいね」


「ええ、ありがとう」


その時―。


「ヒルダーッ!」


汽車の吐き出す白い煙の奥から誰かがこちらに向かって駆けてくる姿が目に入った。

その人物とはエドガーだった。


「まぁ…お兄様」


ヒルダは目を見開いた。まさかエドガーがホームまで迎えに来ているとは思わなかったからだ。


「久しぶりだなヒルダ。よく来てくれた。カミラもご苦労だったな」


「こんにちはエドガー様。お迎えありがとうございます」


カミラは会釈した。


「お兄様…どうしてこちらへ?」


「どうしても何も妹のお前を迎えに来るのに理由はいらないだろう?」


エドガーはニコニコしながらヒルダを見ている。


「ありがとうございます」


「ヒルダ、荷物を持とう」


エドガーがヒルダの荷物に手を伸ばしてきた。


「い、いえ。大丈夫です。自分で持てます」


「何故だ?重いだろう?それにその足では…」


「いえ。私もこの夏から大学生です。出来るだけ人の助けは借りないように生きてこうと…決めているので」


「そうか…分かったよ」


(あまりしつこくしてもヒルダに嫌がられるだけだしな…)


エドガーは手を引くと2人に言った。


「よし、では行こう。駅の外に馬車を待たせてあるんだ」


「はい」


「ありがとうございます」


ヒルダとカミラは礼を述べ、3人は連れ立って改札を目指して歩き始めた。



 駅の外に出ると、そこで待っていたのは帽子をかぶったスコットだった。スコットはヒルダ達に気付くと帽子を取り、頭を下げた。


「お帰りなさいませ、ヒルダ様。カミラさん」


「ありがとう。迎えに来てくれて。」


ヒルダはスコットに礼を述べた。


「いいえ、私は御者ですから当然の事です」


スコットは笑みを浮かべてヒルダを見た。


「よし、ヒルダ。乗ろう。手は…」


「はい、1人で乗るので大丈夫です」


スコットはガチャリと馬車のドアを開けると言った。


「どうぞお乗り下さい」


ヒルダは手すりにしっかり捕まり、何とか馬車に乗り込むと椅子に座るとため息を付いた。


「ヒルダ様、大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よ」


そこへエドガーも乗り込んでくるとスコットに言った。


「馬車を出してくれ」


「はい、かしこまりました」


スコットは馬車を走らせ始めた―。



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