第4章 29 目覚めた場所は
「う…」
ズキズキとした頭の痛みで不意にヒルダは目を覚ました。目の前には高くて広い天井が見える。そしてフカフカで大きなベッドの上に横たわっていた。
「あ…ここは私の部屋…」
(どうしてこんなところにいるのかしら…ここは『フィールズ家』の私の部屋だわ…。私はここを追い出されたはずなのに…)
そして自分の頬に触れると、そこには幾筋もの涙の跡があることに気付いた。その瞬間、ヒルダは思い出した。
(そうだったわ…私はルドルフの葬儀で、気を失って…)
「そ、そうだわ!お葬式はっ?!」
「ヒルダ様っ?!」
その時、部屋の奥の方でカミラの声が聞こえたかと思うとパタパタとこちらに駆け寄って来る足音が聞こえてきた。そしてヒルダの眼前にカミラが姿を見せた。
「良かった…ヒルダ様。目を覚まされたのですね?」
ヒルダはカミラにしがみつくと言った。
「カミラッ!お葬式は?ルドルフのお葬式は…どうなったの?」
「ヒルダ様…もうルドルフ様の葬儀は終わり…棺は教会の裏手の墓地に埋葬されました…」
カミラは歯を食いしばるように言う。
「え…?」
ヒルダはその言葉を聞いたときに一瞬目の前が真っ暗になってしまったかのような錯覚に陥った。
「そ、そんな!嘘よね?!だって…だって私最後までお見送りしていないわ!!どうしてそんなに早くお葬式が終わってしまったのっ?!」
目に涙を溜めながらヒルダはカミラに尋ねる。そこへ騒ぎを聞きつけてか、エドガーがヒルダの部屋に飛び込んできた。
「ヒルダッ!」
そしてヒルダの両肩を掴むと言った。
「ヒルダ!落ち着くんだっ!」
「あ…お、お兄様…。ルドルフは?私、最後までルドルフのお葬式に…立ち会っていないんです…。どうして…?どうしてそんなに早く式が終わってしまったのですか?」
目に涙を浮かべながらヒルダはうわ言の様にエドガーに訴える。
「ヒルダ、落ち着いて良く聞くんだ。窓の外を見てごらん」
「え…?」
ヒルダは視線を窓に移すと青い空がいつの間にか黄昏れ、空には一番星が輝いている。呆然と窓の外を眺めるヒルダにエドガーは静かに言った。
「ヒルダ…お前はルドルフの棺に花を添えて別れを済ませた後…そのまま気を失ってしまったんだ。そこで俺とカミラでヒルダを屋敷に連れ帰ってきたんだ。もう式も終わり、今は午後6時を過ぎた処だよ」
「そ、そんな…!」
ヒルダはベッドから降りようとしたところ、エドガーとカミラに引き留められた。
「待て、ヒルダッ!何所へ行こうとしてるんだ?!」
「お待ち下さい、ヒルダ様!」
「お願い、離して…私、ルドルフに…彼のお墓にお別れを言いに行かなくちゃいけないの…」
ヒルダはエドガーに懇願する。
「駄目だヒルダ。こんな時間にもう外へ出すわけにはいかない。それにあの教会の周辺の森では最近飢えたオオカミが出没しているんだ。すでに何人かの領民たちが襲われて怪我をしているんだ」
「お、お兄さま…だけど…私ルドルフに…お別れを‥ウッ‥ウ…」
ヒルダは俯くと、エドガーの腕を掴み嗚咽した。
「分った、ヒルダ…。明日の朝、俺がルドルフの墓に連れて行ってやろう…。とにかく無理をするんじゃない。それより、ヒルダ…。母が会いたがっているんだが…動けるか?」
「え…?お母様が…?」
ヒルダは涙に濡れた顔を上げてエドガーを見た。
「ああ、ヒルダの事を…すごく心配している」
「わ、分りました…行きます…」
ヒルダはベッドから起き上がり、足元に置かれた室内履きに履き替え、立ち上がったが、足が震えてよろけてしまった。
「危ない!」
「ヒルダ様っ!」
エドガーとカミラが同時に声をあげる。エドガーは咄嗟にヒルダを支えると言った。
「ヒルダ、無理をするな。俺がお前を運んでやるから」
そしてヒルダを抱き上げると扉へ向かって歩き出した。
「お兄様…有難うございます…」
「気にするな、ヒルダ。俺は…お前の兄なんだから」
エドガーはヒルダへの恋心を押し殺しながら笑みを浮かべるのだった―。
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