嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第4章 27 少女の涙

　シクシクと泣き続けるヒルダの肩をエドガーが支えていると、聞き覚えのある声が背後で聞こえた。

「エドガー様はいらっしゃいますか」

（え…あの声は…？）

聞覚えのある声にエドガーは振り向くと、教会の入り口の受付に喪服を着たアンナが立っていたのだ。

（アンナ嬢…葬儀にやってきたのか）

「ヒルダ。アンナ嬢が葬儀にやってきたんだ。迎えに行ってくるから、ここにいるんだ。いいか？」

「…」

ヒルダは涙にくれながら、コクリとうなずいた。

「カミラ」

エドガーは傍らにいるカミラに声をかけた。

「はい、エドガー様」

「すまないが、ヒルダを頼めるか？アンナ嬢に挨拶に行ってくるから」

「はい、かしこまりました」

カミラはうなずくと、ヒルダに寄り添った。

「それじゃ行ってくる」

エドガーは立ち上がると、出入り口に立っていたアンナの元へ向かった。

「アンナ嬢」

アンナは背後から声を掛けられて、振り向いた。

「あ！エドガー様！」

「まさか葬儀に来てくれるとは思わなかったよ。アンナ譲とルドルフは交流があったから知らせだけしておこうと思ったのだが…」

「そんな！ルドルフ様が殺されて…そんな話を聞いて、しかも葬儀が行われると聞けば、じっとなんかしていられません！」

アンナは目に涙を浮かべながら言う。

「ま、まさか…ルドルフ様が死んでしまうなんて…とても良い方だったのに。いいえ、それよりも心配なのはヒルダ様の方です。ヒルダ様はどうしていらっしゃるのですか？お屋敷で休まれているのですか？」

「いや。ヒルダはルドルフの最後の別れを告げる為に…葬儀に出席しているよ。ほら、あの席に座っているのがヒルダだ。」

エドガーは振り返ってヒルダの座っている席を目で示した。

「あ、あの後ろ姿は…ヒルダ様っ！」

「あ、アンナ嬢！」

アンナはエドガーが止めるのも聞かずにヒルダの元へと走っていった。

「ヒルダ様っ！」

ハンカチ涙を拭っていたヒルダは聞き覚えのある声に振り返った。

「ア、アンナ様…」

「はい、アンナです。ヒルダ様！」

アンナはカミラとは反対側のヒルダの隣に座ると手を取った。

「ヒルダ様。聞きました。ルドルフ様が…お亡くなりになったって…」

するとヒルダに目に大粒の涙がこぼれ落ちた。

「ア…アンナ様…。ル、ルドルフが…わ、私を置いて…」

ヒルダは自分よりも年下のアンナにしがみつくと、声を上げて泣いた。

「ヒルダ様…なんてお気の毒な…」

アンナも哀れなヒルダを思って涙を流した。

「ヒルダ…。アンナ嬢…」

後からやってきたエドガーは2人の少女が抱き合いながら涙を流している姿を呆然と見つめるのだった。

そしてカミラも2人の少女の様子をハンカチで目頭を抑えながら見つめていた―。

＊＊＊＊

　厳かな雰囲気の中、棺を前に神父が祈りの言葉を捧げている。協会の中にはルドルフの早すぎる死と、そのあまりの凄惨な死に方に心を痛めて涙を流していた。

座席の一番前に座るルドルフの両親は嗚咽が止まらない。呻くように泣く姿が神父の祈りの最中に聞こえてくる。

その様子をヒルダは呆然と座って、眺めていた。ヒルダにとって、今この世界は夢のように感じていた。

（ルドルフ、嘘よね…。貴方が死んだなんて…。）

ヒルダには未だにルドルフが死んだことが信じられなかった。

夢ならどうか覚めてほしい…。

ヒルダはギュッとスカートを握りしめるのだった―。