第4章 21 3人の列車の旅
馬車の中でヒルダは青ざめた顔で窓の外の景色を眺めていた。
(こうして馬車に乗っていると…2人で『ボルト』へ行った時の事が思い出されるわ…)
馬車の中で交わしたルドルフとの会話、始めてのキス…そのどれもがヒルダにとっては胸を締め付けられるような思い出ばかりだった。
「う…」
再びヒルダの目に涙が浮かんでくる。
「ヒルダ様…」
カミラはヒルダをギュッと強く抱きしめるとヒルダは声を殺して嗚咽した。
「ヒルダ…」
そんなヒルダをエドガーは唇を噛み締めて見つめていた。
(こんな事になるなんて…!俺が全ていけなかったんだ!いっそ…俺がルドルフの身代わりになっていれば…!)
エドガーはとんでもないことを考えていた。しかし、それほどまでにヒルダの嘆き悲しみようは見ていても耐え難いものだったのだ。
こうして馬車の中は静寂の中、ヒルダの嗚咽だけが響き渡るのだった―。
7時40分に3人は『ロータス』の駅に着いた。駅には大勢の人々が行き交っている。
「ヒルダ、『カウベリー』に着いたらすぐにフィールズ家に向かって準備をしないといけない。車内で食事をすることになるから何処かでお昼を買っておかないか?」
エドガーはヒルダに尋ねたが、ヒルダは首を振る。
「いいえ…食欲が全く無いの…とても食べられそうにないわ…」
「だがヒルダ。食べておかないと体力が持たないぞ?」
「ええ、そうですよ。ヒルダ様。どうか何か少しでもお口に入れていただかないと…」
カミラも心配そうに言う。
「でも…本当に食欲がわかないの…」
その時、エドガーは構内で露天を連ねている店の中にドライフルーツやナッツ類を売っている店がある事に気付いた。
「ヒルダ、カミラ。少しここで待っていてくれ」
エドガーは急いでその店に行くと、露天商からイチジクやりんご、レーズンなどのドライフルーツやナッツを買って戻ってきた。
「ヒルダ、ドライフルーツ…好きだっただろう?」
「はい…」
「よし、それじゃ列車の車内で食べよう。何か少しでも口に入れておかないといけないからな」
エドガーの言葉にヒルダは無言で頷くのだった―。
****
8時発の『カウベリー』行きの列車に3人は乗った。エドガーは1等車両の指定席を買ったので、乗っている客はヒルダたちを含め、10人にも満たなかった。
ボーッ…
汽車は汽笛を鳴らすと、ゆっくりと走り出した―。
ガタンゴトン
ガタンゴトン…
揺れる車内、3人は一言も口を聞かずに座席に座っていた。黙って窓の外を眺め、時折ハンカチで目を押さえているヒルダをエドガーはじっと見つめていた。
(出来ればこんな再会の仕方はしたくなかった。何故…俺の知るヒルダは悲しみの表情しか無いのだ?)
エドガーの願いはヒルダの心からの笑顔を見ることであった。しかし、その願いはもう永久に叶わないかもしれない…そう思わせるほどにヒルダの顔は絶望に満ちていたのだった―。
(多分…俺ではルドルフの心の隙間を埋める事は…出来ないのだろうな…)
そして改めて死んでしまったルドルフに心のなかで詫びるのだった―。
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