第4章 9 二度目の…


 何度かルドルフにお湯を取り替えてもらい、10分程マッサージをするとヒルダの足はすっかり痛みが引いて楽になっていた。


「ありがとう、ルドルフ。」


「いえ、足の痛みが取れて本当に良かったです」


するとヒルダは突然立ち上がった。


「ヒルダ様?どうされたのですか?」


「ええ、念の為にブランケットを部屋から持ってこようかと思って‥キャッ!」


ヒルダが声を上げた。何故ならルドルフがヒルダを抱き上げたからだ。


「ヒルダ様、歩いてはいけません。僕がお部屋まで連れて行きますから」


「あ、ありがとう…」


ヒルダはルドルフの好意に甘えて部屋まで連れて行って貰う事にした。



****


「ここが…ヒルダ様のお部屋ですか?」



始めてヒルダの部屋を見るルドルフはキョロキョロ見渡し、机の上に自分がプレゼントしたピアノの形をしたオルゴールが乗っているのを見つけた。


「あ、これは…ヒルダ様。このオルゴール…聞いてみてもいいですか?」


「ええ、どうぞ?」


ルドルフはゼンマイを回してテーブルの上に乗せると美しいメロディーがオルゴールから流れ始めた。


「とても美しい音色ですね…」


ルドルフはベッドの上に座っているヒルダを見ると笑みを浮かべた。


「ええ、毎晩寝る前にこのオルゴールを枕元に置いて聞いてるの。そうやって眠ればルドルフが私の側にいてくれる気がするから…」


ヒルダは恥ずかしそうに言うと俯いた。


「ヒルダ様、そこまで僕を思ってくださっているなんて…すごく嬉しいです。」


ルドルフはヒルダの側に座るとギュッと抱きしめ、耳元で囁いた。


「ヒルダ様…また貴女に触れることを…許して頂けますか?」


「!」


ヒルダはその言葉に耳まで真っ赤になったが、無言でコクリと頷きルドルフの顔を見つめた。


「ヒルダ様…愛しています」


その言葉にヒルダは目を閉じた。ルドルフは腕の中にいる愛しい恋人にキスすると、ベッドに寝かせ、そっとヒルダの上に覆いかぶさる。


オルゴールの優しい音色に包まれながら…この日、2人は再び愛を交わした―。



****


 16時半―


ルドルフの帰る時間が来てしまった。


「ヒルダ様…僕はそろそろ帰らなければいけません」


ヒルダとルドルフは2人でベッドの中にいた。ルドルフはヒルダを抱きしめながら言う。


「ルドルフ…帰ってしまうのね…?ずっと貴方と一緒にいたいのに…」


ヒルダはルドルフの胸に顔をうずめながら言う。


「ヒルダ様、僕も…同じ気持ちです。」


そしてルドルフはヒルダにキスすると、ベッドから起き上がり洋服を着始める。

それを目にしたヒルダもため息をつくと自分の服に手を伸ばした―。




防寒コートを着込んだルドルフは今玄関に立っていた。手にはヒルダとの交換日記が握りしめられている。


「ヒルダ様、この日記には僕の気持ちが書かれています。読んだら返事を頂けますか?」


「え?ええ。分かったわ」


ヒルダは笑顔で返事をし、あることを思い出した。


(そうだわ!ルドルフがカウベリーに帰るなら、あれを渡しておかなくちゃ!)


「ねえ、ルドルフ。貴方に渡したいものがあるの。少しだけここで待っていてもらえる?」


「え?ええ。分かりました。」


ヒルダは急いで自室に戻ると引き出しからある物を取り出すと再びルドルフの元ヘ戻った。


「これ…持っていって」


ヒルダはルドルフの右手にお守りを握らせた。


「え…?これは?」


「『ボルト』の町の占い師のおばあさんに貰ったお守りよ。お願い…そのお守り必ず持っていって?」


ヒルダの目は真剣だった。


「ヒルダ様…」


(ヒルダ様はまだあんな占いを信じているのだろうか…?)


ルドルフはヒルダからお守りを握らされるまで、占い師の事などすっかり忘れていた。


(あんな占い…気にすることなど全くないのに)


だが、ルドルフは愛するヒルダを心配させたくは無かった。


「ありがとうございます、ヒルダ様。」


ルドルフはお守りを受け取ると、ヒルダを抱き寄せキスすると言った。


「ヒルダ様、素敵なクリスマスをお過ごし下さいね」


「ええ、貴方も・・・」


そして恋人たちは固く抱きしめあい、ルドルフは寮へと帰っていった。



ルドルフとヒルダは幸せの絶頂にいた。


少なくとも、この時までは―。





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