嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第4章 8 気遣う2人

　2人でひとしきりカードゲームやボードゲームで遊んでいると､部屋の振り子時計が正午を告げた。

ボーン

ボーン

ボーン

「ああ…もうお昼ですか。楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまいますね」

ルドルフがカードをしまいながら言う。

「で、でも…まだお昼よ？出来れば夕食もルドルフと一緒に食べたいわ‥‥」

ルドルフと離れがたいヒルダは懇願する目でルドルフを見た。

「そうしたいのは山々ですが、明日からまた『カウベリー』へ行く予定で始発の汽車に乗って行くので、あまり今日は長居をする事が出来ないのです」

「そ、そう言えばそうだったわね。ごめんなさい、貴方を困らせる事を言ってしまって…」

ヒルダは俯いてルドルフの袖をギュッと握りしめた。

「ヒルダ様…」

ルドルフはヒルダを抱き寄せると言った。

「そうだ、ランチは2人で初めてデートしたときに食べたハンバーガーを食べに行きませんか？」

「ハンバーガー？ええ、そうね。久しぶりに食べたいわ」

「では一緒に行きましょう？」

そして2人は外出準備をすると、戸締りをして手を繋いでハンバーガーショップへと向かった―。

＊＊＊＊

1時間後―

ヒルダとルドルフは2人で仲良くアパートメントへ帰って来た。薪ストーブは消して出掛けた為、部屋の中は冷え切っていた。

「僕が薪ストーブをつけるので座って待っていて下さい」

「ええ、ありがとう。」

ヒルダはルドルフに言われた通り、ソファに座ってルドルフが薪ストーブに火をともす様子をじっと見つめていた。

「ヒルダ様、寒くありませんか？」

薪ストーブに火をつけたルドルフはヒルダに尋ねた。

「ええ、今は少し寒いけどすぐに温かくなるから大丈夫よ。でも少し足が痛むわ」

以前、ルドルフはヒルダに話した事があった。足の痛みが出たら我慢しないで必ずすぐに教えて欲しいと。なので、ヒルダはその時以来足の痛みを我慢せずにルドルフに訴えるようにしていたのである。

「え？足が痛むのですか？」

「ええ。そう言う場合はアレン先生に温タオルで足を温めてマッサージするように言われているの」

するとルドルフは言った。

「バスルームでお湯を組んでくるのでヒルダ様はマッサージ出来る準備をして舞っていてください」

「え？でもルドルフにそんな事をお願いするのは悪いわ」

するとルドルフはヒルダの前に跪くと言った。

「僕の前で悪いとか思わないで下さい。僕がヒルダ様の為にしてあげたいんです」

その言葉にヒルダは赤面してしまった。

「あ、ありがとう」

ルドルフは笑みを浮かべると言った。

「では用意してきますね」

　ルドルフがたらいにお湯を汲んでリビングに戻ってくると、部屋の中は大分温かくなっており、タイツを脱いで傷ついた左足をマッサージしているヒルダがいた。

「ヒルダ様」

「あ、ルドルフ。お湯を持ってきてくれたの？」

「はい、すみません。タオルも勝手に借りてしまって…」

「いいのよ。別にそれくらい。それじゃお湯で絞ったタオルを貸して貰える？」

しかし、ルドルフは首を振ると言った。

「いいえ、僕がマッサージします」

（少しでもヒルダ様の負担を僕が減らしてあげるんだ）

「け、けど恥ずかしいわ…」

「あ、そ・そうですよね？すみませんでした。ヒルダ様の気持ちも考えずに」

ルドルフは慌てて謝罪し、先走ってしまった自分を恥じた。

「いいのよ、気にしないで？それじゃ温タオルを貰える？」

ヒルダはニッコリ微笑むと手を伸ばした。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

ルドルフから温タオルを受け取ったヒルダは自分の左足の傷跡部分に温タオルを乗せるとマッサージを始めた―。