第4章 4 クロード警部補の事情聴取 4
ガラガラガラガラ・・・
「・・・・」
クロード警部補は1人、馬車に乗って窓の外を眺めていた。
(それにしても話がうまくいって良かった。コリン君もこれで少しは人間らしい生活を送ることが出来るかも知れない)
コリンを連れて工房を訪れた時、かつてクロード警部補によって逮捕された男は驚いた。しかし、コリンの事情を話すと快く受け入れてくれたのだった。彼も過去において工場で劣悪な環境で働かされて逃げ出した身。逆に2年も耐えて働いていたコリンを褒めたたえてくれたのだ。あんな環境で2年も働いていたなら、きっと根性がある少年に違いなと言う事でその場で引き受けてくれたのだ。しかも住む場所すらない話を打ち明けると、自分の住まいを提供する約束までしてくれた。
「あの2人なら…きっと素敵なオルゴールを作って世に送り出す事が出来るだろうな…」
クロード警部補は陰鬱な景色が広がる『ボルト』の街並みを眺めながら呟き、次の目的地である赤十字病院の住所が書かれたメモを握りしめた―。
****
「え・・と、結核で入院中の17歳の少女…ですか?」
クロード警部補は入院受付でノラの病室の部屋番号を尋ねていた。
「ああ…おりますね。お部屋番号は405号室です。そちらの階段をお使い下さい」
受付女性はクロード警部補の背後にある階段を指し示すと言った。
「どうもありがとう」
礼を言うと、ノラの病室を目指してクロード警部補は階段を昇り始めた―。
階段を昇り、4階までやってくると405号室を目指した。
「405号室…ここか。あ、そう言えばここは結核病棟だったな…」
クロード警部補はこの時の為にマスクを2枚用意していた。2枚重ねでマスクをつけると、病室のドアをノックした。
コンコン
返事は無い。しかし、部屋の中からは苦し気な咳が時折聞こえてくる。
「失礼するよ…」
がちゃりとドアノブを回して扉を開けると、そこは清潔な病室だった。真っ白な壁に白いカーテンが開け放たれた窓から吹く風で揺れている。部屋の中央には大きなパイプベッドが置かれ、掛けられたキルトがこんもり盛り上がり、激しい咳をするたびに揺れている。
「ノラさんかい?」
クロード警部補は遠慮がちに声を掛けた。
「え…?」
するとか細い声が聞こえ、ムクリとノラが起き上がった。その顔は酷く青白く、痩せていた。
「誰ですか…?」
口元をタオルで覆いながらノラが尋ねた。そのタオルには所々に血が滲んでいる。
「君はルドルフ君を知っているね?」
クロード警部補はノラから距離を置いて尋ねた。
「はい…勿論知ってます。私をこの病院に入院させてくれたのは彼だから。ひょっとして…警察の人ですか…?」
「私が誰か知っているのかい?」
「ルドルフが言ったんです…警察の人が話を聞きに来るかも知れないって…私にはお見舞いに来る人もいないし、だから…警察の人かと思ったんです…ゴホッ!」
急に沢山話したからか、ノラは咳き込むとタオルに血が付いた。
「き、君!大丈夫かいっ?!」
クロード警部補は慌てた。
「は、はい…大丈夫です…これでも以前よりは体調が回復したんですよ…?ルドルフのお陰です…」
「そうか…なら、君に早速話を聞いてもいいかな?」
「ええ、大丈夫です…」
ノラは小さく頷いた―。
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