第3章 12 2人きりの夜
21時―
「ルドルフ・・・シャワー空いたわ。どうぞ」
シャワールームから出てきたヒルダは机の上で書き物をしていたルドルフに声を掛けた。
「分かりました。ヒルダ様・・」
ルドルフは顔を上げてヒルダを見ると目を細めた。今ヒルダが来ているナイトウェアはアイボリーのロングワンピースで袖と裾にふんだんにフリルがあしらわれている、とても可愛らしいドレスタイプのナイトウェアだった。
「ヒルダ様・・そのパジャマ、とても可愛らしいですね。まるでお姫様みたいです」
「あ、ありがとうルドルフ」
ヒルダは照れながら言う。
「それでは僕もシャワーを浴びてきますが・・眠かったらどうぞ先にお休みになっていてくださいね。テーブルランプだけつけておいていただければ大丈夫ですから」
しかし、ヒルダは首を振った。
「いいえ、ルドルフがあがってくるのを本を読みながら待ってるわ。もっと寝る前にお話がしたいし」
「分かりました。では待っていて下さい」
するとヒルダが呼び止めた。
「あのね。私が待っているからと言って、無理に早く上がってこなくていいのよ?本を読んで待っているから」
「分かりました、ヒルダ様」
ルドルフは笑みを浮かべるとバスルームへ入り・・顔を真っ赤にさせるのだった―。
ヒルダはルドルフがバスルームへ行ってる間、図書コーナーで借りた恋愛小説を読んでいた。それは身分違いの悲しい恋愛を描いた小説だった。ヒルダは夢中になって読んでいたが、疲れが出たのか、やがてうとうとうとし始め・・ルドルフがバスルームから出た頃には完全に眠りについてしまった―。
カチャリ・・・
ルドルフがバスルームから出てきた。
「ヒルダ様?」
「・・・・」
(何をしているのだろう・・・?)
ルドルフはヒルダが自分に背を向けているので眠ってしまったことに気づかなかった。
背後からそっと覗き込むと、ヒルダはソファの背もたれに寄り掛かるように眠ってしまっていた。
「ヒルダ様・・・」
ルドルフはクスリと笑うとヒルダを抱き上げて、窓際のベッドへ運んだ。ヒルダは背も小さく、痩せているので眠ってしまっていても全く重みを感じなかった。
ブランケットをまくって、そっとヒルダを横たわらせるとルドルフはヒルダの額にキスをすると言った。
「おやすみなさい・・ヒルダ様」
そして再び机に向かい、コリン宛ての手紙と日記を書き上げる頃には22時半になっていた。
「さて・・僕も寝ようかな。」
ルドルフはアルコールランプを吹き消し、ヒルダの寝息を聞きながら眠りについた。
カチコチカチコチ・・
ホテルの部屋の時計が静かに時を刻んでいる。ルドルフは眠りについていたが、うなされる声を耳にして、夜中にパチリと目が覚めた。すると隣んで眠っているヒルダがひどくうなされている。
「い、いや・・。お願い・・いかないで・・・ルドルフ・・・ッ!」
「ヒルダ様っ?!」
ルドルフは突然ヒルダが自分の名を口にしたので驚いて飛び起き、ヒルダの傍に行った。
「ルドルフ・・行かないで・・そばにいて・・」
ヒルダはうわごとでルドルフの名を呼んでいる。
「ヒルダ様!しっかりして下さいっ!」
ルドルフが揺り起こすと、ヒルダはパチリと目を開けてルドルフを見つめた。
「ル・・・ルドルフ・・・?」
「はい。僕です」
ルドルフは返事をする。するとヒルダは身体を起こすとルドルフに強く抱きついた。
「ヒルダ様?どうしたのですか?」
「貴方が・・遠い所へ行ってしまう夢を見たの・・・いくら私が行かないでと言っても・・手の届かないところへ・・・」
ヒルダはルドルフの胸に顔をうずめ、ガタガタ震えている。
「大丈夫です、僕は何処にもいきません。安心して眠って下さい」
そしてルドルフがベッドへ戻ろうとするとヒルダが引き留めた。
「いや!行かないでっ!お願い・・そばにいて・・?」
余程怖い夢を見ていたのだろうか。ヒルダの目に涙が浮かんでいる。
「ヒ、ヒルダ様・・・。だ、だけど僕は・・同じベッドで眠るわけには・・」
「どうして・・?貴方が傍にいてくれないと・・不安で・・怖くて眠れないわ・・お願いだからここにいて・・」
ヒルダは震えながらルドルフにしがみついて懇願する。
「だ、駄目です。そんな事をしたら僕はヒルダ様に触れたくなってしまいますから!」
ついにルドルフは自分の本心を言ってしまった。
「構わないわ・・」
「え・・?」
「だって・・私はルドルフを愛してるから・・」
月明かりに照らされて、涙を浮かべるヒルダは・・とても美しかった。
「で、でも・・・いいんですか・・?」
「いいの・・。貴方に傍にいて欲しいの・・」
ポロリとヒルダの大きな目から涙が零れ落ちる。
「ヒルダ様・・・!」
ルドルフはヒルダを強く抱きしめ、キスをすると2人はベッドに倒れこんだ―。
****
「・・・!」
ヒルダの肌に触れているとき・・ルドルフはヒルダの左足に縦に一直線に走る大きな傷跡に気が付いた。
するとヒルダは悲し気に笑みを浮かべる。
「ルドルフ・・醜いでしょう?私の傷・・」
「いいえ・・・ヒルダ様の身体で・・醜い場所なんて一つもありません・・」
ルドルフはヒルダの傷跡にキスすると言った。
「僕は・・・貴女程綺麗な人を知りません。愛しています・・ヒルダ様・・・」
「ルドルフ・・私も・・」
そしてルドルフはヒルダの身体に静かに覆いかぶさる。
月に見守られながら、この夜2人は初めて結ばれた―。
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