第2章 29 ルドルフの考え
ホテルへ帰る馬車の中、ルドルフが言った。
「ヒルダ様、僕はホテルに着いたら電話を掛けようと思うんです。」
「え?電話・・誰に?」
「実は・・・僕は今回のイワンの自殺とグレース殺害事件で刑事さんと知り合ったんです。『カウベリー』の隣町・・『コックス』は知っていますか?」
「ええ、知ってるわ。その町が『カウベリー』の首都だったわよね?市役所もそこにあるでしょう?」
「はい、そこには警察の本庁もあります。知り合った刑事さんはそこにいるんです。その人に・・連絡を入れて、コリンとノラの証言を聞いてもらおうと思うんです。早くしないと・・ノラの命が・・。」
「ルドルフ・・・。そうね・・・。でも、ノラさん・・病院に移れば良くなるんじゃないかしら・・?」
ヒルダは考え込むように言う。
「ヒルダ様?でも・・ノラにはお金が・・。」
けれど、そこでルドルフは少し考え込むと突然立ち上がって窓を開けた。そして顔を外に出すと御者に声を掛けた。
「すみません!行く先を変更してもらえますか?」
「はい、どちらへ?」
御者は馬車を止めると、振り向いた。
「この町に結核患者の治療を行う病院はありますか?」
「ええ、ありますが・・・丁度これからお送りするホテルの近くにありますけど・・もうこの時間じゃ受付は終わっていると思いますよ?」
「・・そうですか、分かりました。それではホテルまでお願いします。」
「承知致しました。」
そしてルドルフは頭を引っ込め、再び馬車は音を立てて動き始めた。
「ルドルフ・・・突然どうしたの?」
ヒルダは声を掛けた。
「ええ・・ノラを転院させてあげようかと思ったのですが・・もうこの時間だと病院はしまっているようですね。」
ルドルフは腕時計を見ながら言う。
「ルドルフ・・ひょとして・・・?」
「はい、僕の・・お金でノラを入院させてあげることが出来ないかと思ったんです。ただ、どのくらい必要なのか分からなくて・・。」
「ルドルフ・・・。」
ルドルフは毎月実家から金貨5枚、そしてハリスから金貨5枚の援助を貰っている。そのほかに家庭教師のアルバイト代が毎月金貨2枚もらえている。ルドルフが教えている家はとても裕福な家庭なので、高校生ながらかなり高額なアルバイト代をもらえていたのだ。
(月々の入院費用が・・・僕のアルバイト代金でまかなえれば・・・。)
するとヒルダが言った。
「ルドルフ、だったら私もお金を出すわ。」
「いいえ、ヒルダ様。それは駄目です。病院の入院費用ぐらい・・自分で出せないと、将来ヒルダ様を幸せに出来ませんから・・・。」
「ル、ルドルフ・・。」
ヒルダはその言葉の意味に気づき、真っ赤になった。そんなヒルダをルドルフは愛し気に見つめ・・・椅子から立ち上がり隣に座ると、ヒルダを抱き寄せキスをした―。
やがて、馬車は2人が泊まるホテルへついた。いつもの如く、ヒルダを抱きかかえて馬車を降りるとルドルフは馬車代として、銀貨1枚を支払った。
御者は帽子を取って一礼すると、再び走り去って行った。
「ヒルダ様、お疲れになったでしょう?取り合えずは中へ入りましょう。外は・・空気も悪いですし。」
「ええ・・そうね。」
ルドルフがドアを開け、2人はホテルの中へ入るとルドルフは言った。
「ヒルダ様、部屋のカギを貰ってくるのでここで待っていて下さい。」
「ええ。分かったわ。」
ヒルダはソファに座るとルドルフはフロントに向かった。ルドルフの様子をソファに座ってみていると、すぐにこちらへ向かって歩いてきた。
「カギを貰いました。行きましょう。ヒルダ様。」
「ええ。」
ヒルダはさし伸ばされたルドルフの手を借りて立ち上がると、エレベータホールへ向かった。
エレベーターホールにはホテルのボーイが立っていた。
「この女性を301号室迄お願いします。」
「かしこまりました。」
ヒルダはルドルフの言葉を聞いて尋ねた。
「え?ルドルフ。貴方は行かないの?」
「はい、僕は警察に電話を掛けてからいきます。ヒルダ様はお疲れでしょうから部屋で休んでいてください。」
「ありがとう、ルドルフ・・・。」
「いいえ気にしないで下さい。それではまた。」
ルドルフは笑顔で手を振った。
「ええ・・、またあとでね?」
そしてヒルダは部屋へ、ルドルフはフロントへ向かった―。
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