第2章 24 コリンとの約束。そして・・・

「コリンさん・・・もう、いいわ・・・。」


ヒルダが静かに言う。


「だ、だけど・・・。」


「いいのよ、だってコリンさんは・・・蜂の巣を叩き落とそうとしたイワンさんやグレースさんを止めようとしてくれたんでしょう?」


「は、はい・・・。」


「だったら・・もう気にしないで。こんな言い方をしたら不謹慎かもしれないけど・・足を怪我してしまった事で失ってしまったものもあるけど・・でもその代わりに・・ルドルフがいてくれるから・・。」


そしてヒルダはルドルフを見た。


「ヒルダ様・・・。」


ルドルフはヒルダの肩を自分の方へ引き寄せるとコリンを見た。


「コリン・・・。」


「は、はい・・・。」


コリンは震えながら返事をした。


「良かったな。ヒルダ様がお優しい方で・・・。」


「・・・。」


コリンは無言で頷く。それを見たルドルフが言った。


「コリン。教会の火事の原因は・・グレースだったんだよね?火のついた薪を持っていたのは・・。」


「あ、ああ。間違いない。・・ごめん・・・!お、俺達・・本当に怖くて・・大人たちに追及されたとき、怖くて何も言えなかったんだよ・・!」


コリンは再び嗚咽した。


「分った・・・もういい。その代り・・コリン。」


ルドルフは静かに言った。


「万一・・教会の火事の件を警察に伝える時は・・証言してもらうよ。いいね?」


「あ、ああ・・・わ、分った。約束するよ・・・。」


コリンはガタガタ震えながらも頷いた―。




「それじゃ、コリン。元気で・・・。」


喫茶店を出るとルドルフはコリンに言った。


「あ、ああ・・・。」


コリンはオドオドしながら返事をした。そんなコリンをルドルフは見て、改めて思った。カウベリーにいた時からコリンは痩せていたが、今はさらに身体がやせ細っている。栄養状況も悪いのだろう、顔も青ざめて今にも倒れそうだった。


「これから・・・ノラに会いに行くんだろう・・?ノラのいる紡績工場も酷いところだって聞いてるんだ・・。よ、よろしく伝えて置いてくれよ・・・。」


「分ったよ、コリン。」


「コリンさん、お元気でね。」


「は、はい・・・ヒルダ様も・・お元気で・・・。」


コリンは頭を下げると、ヒルダ達に背を向けて去って行った。それをじっと見送りながらルドルフは言った。


「ヒルダ様・・・足の怪我の事ですが・・・。すみません、こんな事になったのは・・・全て僕のせいなんです・・!」


ルドルフはヒルダの手を握りしめると言った。


「何故ルドルフが謝るの?」


ヒルダは首を傾げた。


「それは・・僕に執着していたグレースがヒルダ様を傷つけたからです・・。」


「でも、それは貴方のせいじゃないわ。」


「ですが・・僕はヒルダ様にお詫びを・・。」


「お詫びなんて、そんな・・。」


ヒルダが首を振るとルドルフは言った。


「だから・・僕のお詫びは・・。」


ルドルフはヒルダを抱き寄せ、柔らかな髪に顔をうずめると言った。


「ずっと・・貴女の傍にいて・・守ることです・・。いいですか?ずっとヒルダ様の傍にいさせてもらっても・・・。」


「!」


ヒルダの肩がピクリと動いた。それは・・とても早いプロポーズの言葉だった。


「い、いいの・・?ルドルフ・・・。私はこんな足なのに・・?」


「はい、僕は貴女でなければ駄目なんです。ヒルダ様。愛しています・・。」


「ル・・・ルドルフ・・・。」


(神様・・・私は今・・とても幸せです・・・。)


ヒルダはルドルフの胸に顔をうずめ・・涙を流すのだった―。









 

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