第2章 23 白状したコリン

「う・・・う、嘘だろう・・・・?そ、その話・・・。」


ルドルフの話を聞き終えたコリンの顔は真っ青になっていた。話を聞いていた途中、コリンはあまりのショックで何度か意識を失いかけ、その度にルドルフとヒルダは慌てる羽目になってしまったのである。


「嘘じゃない。全部本当の話だよ。僕はイワンのお葬式にも参加したし・・グレースの父親が逮捕されたのも知っている。」


「あ・・・。」


ガタガタ震えるコリンを見てルドルフは言った。


「それにしても驚いたよ・・・。グレースの家はお金持ちだったはずなのに・・家の中はほとんど物がなくて、がらんどうだった。グレースの顔の火傷も・・あんなに酷かったなんて・・。」


ルドルフがポツリと言うと、コリンが声を震わせながら言う。


「バ・・・バチだ・・・。バチが当たったんだ・・・。グレースもイワンも・・・そ、そしてお、俺が今・・・こ、こんな理不尽な目に遭っているのも・・・・。」


「コリン?」


ルドルフがコリンの様子がおかしいことに気づき、声を掛けた。


「コリンさん?」


ヒルダも声を掛けた次の瞬間―


「も・・申し訳ありませんでしたっ!ヒ、ヒルダ様っ!」


突如、コリンがテーブルに上に両手をついて頭を下げてきた。


「え?どうしたの?コリンさん。」


するとコリンはテーブルの上に頭を乗せたまま体中を震わせながら言った。


「ヒ、ヒルダ様が・・・う、馬から落ちて・・大怪我を負ったのは・・ぜ、全部・・グレースの仕業なんですっ!」


「えっ?!」


ヒルダはあまりの言葉に驚いた。


「コリン・・・顔を上げてくれ・・・。」


ルドルフは怒りを抑えた声でコリンに言う。


「あ、ああ・・・・。」


顔を上げたコリンの唇からは血の気が失せ・・顔は白くなっていた。まるでいまにも気を失いそうな様子だった。


「一体、どういう事なのか・・説明してくれるね?」


「コリンさん・・お願い、話を聞かせて?」


ヒルダも静かに尋ねる。2人に促され、コリンはコクリとうなずくとヒルダの落馬事件の自分が知っている全てを説明した。

あの日・・グレースがヒルダの頭上にハチの巣があることに気づいたこと、そして危ないからハチの巣を長い棒で落とせばよいと提案されて、それをイワンが実行した事、自分とノラはそれを止めたにも関わらず、イワンはハチの巣を叩き落とし・・・一斉にハチの巣からハチが飛び出し、ヒルダを乗せた馬がそれに驚き、馬が走りだし・・ヒルダが落馬したことを―。



「そ、そんな・・・・。」


ヒルダはコリンの話を聞き、テーブルの上で両手をギュッと握りしめた。その話を聞かされた時・・ヒルダの脳裏にあの時の恐怖が蘇り・・思わず震えてしまった。

するとヒルダの震える手に上からそっとルドルフの手が添えられた。


「ルドルフ・・・。」


ヒルダはルドルフを見た。ルドルフは優しい笑みを浮かべると言った。


「大丈夫です、ヒルダ様には・・・僕がついています。」


そしてヒルダの手を握りしめたままコリンの方を向き直った。


「コリン・・・今の話は本当だね?」


「あ、ああ・・・ほ、本当だよ・・・。そ、それに教会の火事だってあの時グレースはいつまでたってもルドルフが自分を相手にしてくれないからと言って、ヒルダ様が何か入れ知恵しているに違いないって、それで俺たちにも説得するように協力しろと言ってきたんだよ・・。もし言う事を聞けば・・暖かいコートを買ってやるって・・で、でも・・・ウウウ・・そ、それは嘘だったんだよぉ・・・・。」


いつしかコリンは涙を流していた。そして嗚咽交じりに言う。


「グ・・グレースの家は・・と、とっくに父親の事業が失敗して・・破産していたんだよ・・だ、だから俺たちにコートなんか買う事が出来る立場じゃなかったのに・・ヒ、ヒルダ様を教会へ呼び出す為にあんな嘘を・・・!」


「グ、グレース・・・な、何てどこまでも卑怯な人間なんだ・・・っ!」


ルドルフは再びグレースに対して激しい憎しみを抱いた。死んでも消えない憎しみがこの世には存在するのだという事をルドルフは改めて思い知らされたのである。


「すみませんでした・・・ヒルダ様・・・ど、どうか許してください・・・。お、俺たちは何の罪もないヒルダ様に・・・大怪我をさせ・・あ、挙句にカウベリーを追放させる真似を・・・。」


ガタガタ震えて謝罪するコリンの姿は・・・とても惨めで・・哀れだった―。


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