番外編 カウベリーの事件簿 ⑦
ハリスは戸惑いながらイワンの遺書が入った封筒を見つめた。
「あの・・彼の遺書・・私が見ても良いのですか・・?」
するとクロード警部補は頷いた。
「ええ・・宛名はありませんが・・多分領主様宛だと思います。」
「そうですか・・・では・・。」
ハリスが封筒に手を伸ばした時、クロード警部補が言った。
「伯爵・・・。」
「はい?」
「かなりショッキングな内容が書かれているかもしれませんが・・どうぞお気を確かに・・。」
「わ・・分かりました・・。」
ごくりと息を飲むと、ハリスは緊張する面持ちで封筒から遺書を取り出し・・・目を通した。
『 領主様、ごめんなさい。俺は大変な事をしてしまいました。ヒルダ様が落馬して足を怪我したのは俺の責任です。グレースに言われてヒルダ様の近くにあった蜂の巣を棒でたたき落として蜂が沢山飛び出してきました。驚いた馬が暴れて走り出してヒルダ様が落馬して足を怪我しました。あの教会の火事も火のついた薪を持っていたのはグレースでした。俺がグレースを止める為に腕を掴んだら、グレースは薪を落としてしまい、火事になりました。本当にごめんなさい。怖くて今まで黙っていてごめんなさい。死んでお詫びします。 イワン 』
「な・・・な・・・・何と言う事だ・・・・っ!!」
遺書に目を通したハリスの顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。身体は怒りで震え、遺書を持つ手はブルブルと震えていた。
「お怒りはもっともかもしれませんが、落ち着いて下さい、伯爵っ!」
クロードは必死になってハリスに呼びかける。
「あ・・あ・ああ・・・。」
ハアハアと荒い息を吐きながら深呼吸をするとハリスはソファに寄り掛かり・・溜息をついた。
「な・・・何と言う事だ・・・そ、それでは・・ヒルダが重い足の怪我を負ったのは・・彼らのせいだったのか?火事を起こしたのも・・あの2人だったと・・?」
ハリスの目から大粒の涙があふれ出て来た。彼は2年ぶりにようやく娘であるヒルダの名前を口にした。
「ヒ・・ヒルダ・・。何て可哀そうな娘なのだ・・・。足の大怪我だけでも気の毒だったのに・・何故・・何故犯人でもないお前が教会の火事の罪を被ったのだ・・?!そのせいで・・私はお前にとんでもない事を・・!すまない・・!ヒルダ・・ッ!」
ハリスはその場に泣き崩れてしまった。2人の警察官はどうしようもなく、ハリスが落ち着くのを待つしかなかった―。
30分後―
ようやくハリスは落ち着きを取り戻し、2人に謝罪した。
「申し訳ありませんでした・・・。取り乱してしまい・・。」
「いえ、とんでもありません。ただ・・気を悪くしないで聞いていただきたいのですが・・。」
クロード警部補は言いにくそうに口を開いた。
「今の話は全てイワンの遺書の中で語られた言葉で・・真実かどうかは分からないのです。何せ肝心なイワンも・・グレースも・・もうこの世にはいないのですから・・・せめてグレースの証言が得られれば良かったのですが・・父親に殺害されていますからね・・。」
「確かにそうですね・・・。では、もう娘の・・ヒルダの無実は晴らせないのですか・・?」
ハリスは悲痛な面持ちで尋ねた。
「後は・・グレースが自分の罪を証明した何かを残しているか・・父親が何故自分の娘を手に掛けてしまったのか・・理由を話してくれれば・・・。」
「グレースの父親ですねっ?!だったらすぐに話を・・!」
ハリスは勢いよく言ったが、クロード警部補は首を振った。
「それが・・グレースの父親も母親も・・錯乱しており、まともに話も出来ない状態なのです・・。まずは精神状態が落ち着くのを待つしか・・。」
「そうですか・・・それは残念です・・。ところでお2人に・・少しだけ私の話を聞いて貰いたいのですが・・良いですか・・?」
ハリスは弱々し気に言うと、クロード警部補とカール巡査を交互に見た―。
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