番外編 カウベリーの事件簿 ⑥
午後2時―
昼食を終えたハリスは執務室で書類にペンを走らせていた。シンと静まり返った部屋ではハリスがペンを走らせる音と、暖炉の薪が時折パチパチとはぜる音が聞こえてくる。
コンコン
突然ノックの音がした。
「誰だね?」
ハリスは顔を上げてドアの方を向くと、廊下から執事のマルコの声が聞こえて来た。
「旦那様・・・警察の方が2名旦那様にお目通りしたいといらしているのですが・・。」
「何?警察?分かった。この書類に目を通したらすぐに行くので応接室に案内しておいてくれ。」
「かしこまりました。」
ハリスは用件だけ伝えると、すぐに書類に目を落として仕事を再開した―。
警部補とカール巡査は通された応接室でハリスが来るのを待っていた。
「警部補・・・ものすごく豪華な部屋ですね・・。貴族の御屋敷に入るなんて生まれて初めての事ですよ・・。」
カール巡査長は豪華な調度品に、座り心地の良いソファ、そして広すぎる応接室に驚き、辺りをキョロキョロと見渡している。それを警部補がたしなめた。
「こら・・よさないか。子供じゃあるまいし・・・。ここ『カウベリー』の領主の屋敷なのだから当然だろう?」
「警部補はやけに落ち着いていますが・・以前にもこんな立派なお屋敷に上がったことはあるのですか?」
「当然だ。何年警察官をやっていると思っているんだ。」
しかし、彼自身も新人の頃に初めて上がった貴族の屋敷に興奮した記憶を思い出し・・苦笑した。
(何だ・・俺も考えてみれば若い頃は同じだったな・・。)
「まあ、落ち着け。とりあえず出されたコーヒーでも飲もう。」
警部補は目の前の大理石のテーブルに置かれたコーヒーカップに手を伸ばして、一口飲んだ。
「ほーう・・さすがは良い豆を使っているな・・。」
コーヒー通の警部補にはすぐにこのコーヒー豆が上質なものだと言う事に気付いた。
「本当ですか?美味しいんですか?」
「ああ、君も飲んでみろ。」
「はい!」
カール巡査もコーヒーを飲み、言った。
「本当だっ!すごく美味しいですねっ!」
すると・・・。
「そのコーヒーを気に入っていただけたようで何よりですな。」
いつの間に現れたのか、ハリスが声を掛けて来た。
「フィールズ伯爵、初めまして。私はこの度、首都『マロウ』から派遣されて参りました警部補のクロードと申します。こちらは私のアシスタントのカール巡査です。」
クロード警部補は立ち上がると素早く挨拶をした。
「カール巡査です。よろしくお願いします。」
カール巡査も警部補にならい、挨拶をした。
「初めまして、ハリス・フィールズです。どうぞ、お掛け下さい。」
「はい、失礼致します。」
「失礼します。」
クロード警部補とカール巡査は交互に言うと腰を下ろした。
「それで・・私にお話とは・・・?」
「ええ。もう察しがついておられるとは思いますが・・今回、この町で起こった2つの事件についてお話したいことがあって参りました。」
「ああ・・・本当に痛ましい事件でしたな・・。まだ17歳の若い命が2人も同じ日に失われて・・・。」
ハリスは額に右手を当てると沈痛な面持ちで言う。
「ええ、それで・・・我々はルドルフ君の家にまず話を聞きに言ったのですがイワンから手紙を頂いていたそうですね?」
「ああ、そうなのだよ。どうも要領を得なかったが・・・手紙は何故か私に対して謝罪文だった。その手紙をルドルフにも見せたのだが・・彼の顔は真っ青になっていたよ。」
ハリスは溜息をついた。
「そうでしたか・・・。実は我々は今しがた、イワンの家に何か彼の自殺の手がかりを掴めるものが見つからないか、捜索をしてきたところだったのです。そこで・・彼の遺書を発見しました。」
クロード警部補は背広の懐から1通の封筒を取り出し、テーブルの上に置いた―。
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