嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第11章 15 グレースの父

　ハリスとマルコがカウベリー駅へ向かったのを見届けると、エドガーがルドルフに声を掛けた。

「ルドルフ、俺たちも行こう。」

「行くって・・・グレースの家・・ですよね？」

「ああ、でもその前に・・母上の処へ挨拶に行こう。まだ今日は一度も挨拶に行っていないんだ。」

エドガーの言葉にルドルフは言った。

「あの・・・僕も挨拶に伺っても・・宜しいでしょうか？」

「そうだな・・では行ってみようか？」

こうしてエドガーはルドルフを伴って2人でマーガレットの寝室へと向かった―。

一方その頃―

　カチカチのパンに野菜くずだけのスープをグレースとグレースの母はカーテンの閉め切った暗い部屋でテーブルの上にろうそくを置いて朝食を食べていた。

「ねえ・・・・グレース・・・。食事の時くらい・・部屋を明るくしないかい？」

母が遠慮がちに尋ねてきた。するとグレースはガチャンと乱暴に空になったスープ皿にスプーンを叩きつけると言った。

「はぁ？ふざけないでよっ！こんな・・・こんな醜い顔になってしまった私に明るい部屋の中にいろって言うの？！冗談じゃないわよっ！大体・・あんた達2人が商売に失敗してしまったから・・うちは借金まみれで、私はこの醜い傷跡を手術することも出来ないんでしょうっ？！私の人生は・・もう最悪よっ！」

こうなるともうグレースは手に負えなくなる。

「うう・・す、すまない・・よ・・グレース・・。」

母は必死で床に跪くとグレースに詫びる。

「うるさいっ！謝る前にどこかで金を作ってきなさいよっ！」

グレースはうずくまった母親の背中を思い切り踏みつけた。その時・・。

「やめるんだ！グレースッ！」

早朝の新聞配達の仕事を終えてきた父親が部屋に飛び込んで来た。そして母親を踏みつけているグレースを見ると顔色を変えた。

「お、お前という娘は・・・。どけっ！母さんから離れろっ！」

父親はグレースの肩を掴むと、無理やり母親から引き剥がした。すると、その勢いでグレースは床に思い切り倒れこんでしまった。

「キャアッ！い、いった～い・・・。な・・な、何するのよっ！」

グレースは今までそのような乱暴な事をされた事が無かった為に父親に激しく激怒した。

「うるさいっ！それはこっちの台詞だっ！母さん・・・大丈夫だったか・・？」

父親は妻の身体を抱え起こし、椅子に座らせた。それを見ていたグレースは怒りでブルブル身体を震わせながら喚いた。

「何よっ！娘の私の心配はしないっていうの？！あんた、それでも私の父親っ？！」

すると父は怒鳴り返した。

「黙れ！グレースッ！お前・・一体何をやったんだっ！！」

グレースは突然の父の言葉に何を言っているのか理解出来なかった。

「はあ？何をやった・・？一体何の事よ？」

グレースは小ばかにした態度で腕組みすると言った。

「お前・・・イワンを知っているだろう？」

「イワン？ああ・・・イワンね・・。だって昨日訪ねてきたじゃない。」

「な・・何だってっ？！あ、あの少年がイワン・・なのか・・？」

グレースの父は昨日青ざめた顔でこの家から去って行ったイワンの顔を思い浮かべ・・椅子の上に崩れ落ちて、ガタガタと震えだした。

「な・・何てことだ・・・。」

流石にその様子に異変を感じたグレースは父親に尋ねた。

「何よ？イワンがどうしたのよ？」

「あ、あんた・・イワンに何かあったのかい・・？」

母親は言い知れぬ不安な予感を感じながら尋ねた。

「イ・・イワンは・・死んだ・・・自殺したんだよ・・今朝・・始発の列車に飛び込んで・・っ！」

グレースの父は絶叫した―。