第10章 4 追及
「証拠・・・証拠だって・・?!グレース、君はヒルダ様が今置かれている状況を知りながらそんな事を言っているのか?」
ルドルフはとうとう我慢が出来ずに椅子から立ち上ると言った。
「そ、そうでしょう?貴方達の言ってることは・・全て憶測じゃないの!酷いわ!証拠も無いのにそんな私を責める事ばかり言って・・・!」
グレースには自信があった。すでにあの火災事件から2年も経過している。教会の建物はすでに取り壊されていて今は更地になっているのだ。
(そうよ・・証拠を探すにも・・遅すぎるのよ!もっとも・・あの教会が取り壊されるまでは・・生きた心地はしなかったけど・・コリンやノラ、そしてイワンには口止めをしてある。私が犯人なんて分かるはず無いんだから!)
しかし、ルドルフはそれでもグレースに訴える。
「グレース・・・君には良心と言うものが無いのか?ヒルダ様の落馬事件だって・・・本当はグレース・・君の仕業だろう?!」
(え?!な、何故そのことをルドルフが知ってるの・・・?!)
その言葉を聞いた時、一瞬グレースの顔の表情が変わったのをエドガーは見逃さなかった。一方、興奮していたルドルフはその事に気づいていない。
「ひ、酷いわ・・・。だって、あれはヒルダが乗っていた馬が突然暴れて走り出して、ヒルダが馬から振り落とされたんでしょう?どうして私が関係しているのよ。大体・・私はその場にいなかったもの!」
グレースは涙を浮かべてルドルフに訴える。しかし、ルドルフはグレースの目に浮かぶ涙を見て心底ぞっとした。自分が犯人なのに平気で嘘をつく目の前のグレースが信じられなかった。
(これでは・・やっぱりグレースがヒルダ様に僕とグレースは恋人同士だと訴えられれば信じてしまうかもしれない・・・。やっぱりヒルダ様はグレースに騙されたんだ・・!何て・・・何て酷い人間なんだっ!)
しかし、グレースはルドルフの心の動きを別の意味で捕らえていた。
(フフフ・・・ルドルフ・・困った顔をしているわ。私を責めていることに罪悪感を感じてきたのかしら・・・。)
しかし、そこで今まで黙って様子をうかがっていたエドガーが口を開いた。
「グレース・・・どうして君はヒルダが乗っていた馬が突然暴れて走り出した挙句、馬から振り落とされた話を知ってるんだ?」
「え・・・?」
「ヒルダがどういう状況で馬から落馬したかなんて・・・その場に居合わせていなければ分からない話だろう?現に・・・ヒルダの落馬事故は知られていても、どういう状況だったかはあまり詳しく語られていない。ましてや君は当時は貴族じゃなかった・・社交界の話に詳しくなければ知りえない事実だ。そこまで詳しく状況を知っていると言う事は・・・本当はあの時、あの会場にいたからじゃないのか?」
「そ、それは・・・ひ・人から聞いたのよ!」
「人?誰に?」
エドガーは何処までも冷静にグレースを追い詰めている。一方グレースはエドガーの追及に焦りを感じていた。
(ど、どうしよう・・・誰になんて聞かれても・・答えられるはずないじゃない!)
そんな2人の様子を見つめていたルドルフはエドガーが徐々にグレースを追い詰めている姿を只々感心して見ていた。
(すごい・・・さすがはハリス様が認めた人物だけある・・。)
エドガーはグレースの焦りがピークに達しているのを見て、鎌をかけてみる事にした。
「実はね・・・最近、俺はヒルダの落馬事件に怪しい点があると思って、色々調べ始めていたところなんだ。それで当時の関係者に話を聞いて回っている内に、あの会場に少年少女たちがいたという話を聞いたんだよ。彼らはヒルダの落馬事件を目撃して慌てて逃げて行ったらしいんだけどね・・・。」
「!!」
その話を聞いた時、グレースは薄暗い部屋の中でもはっきりわかるくらいに顔色が変わった。そして身体は小刻みに震えている。その姿を見た時にエドガーは確証を得た。
(あれほど動揺する姿を見せるなんて・・・ヒルダの落馬事故も・・・火事の原因を作ったのも・・・犯人はグレースで間違いない・・・。)
グレースは唇をかみしめ、ブルブル震えていたが・・・・。
「出て行って・・・。早く出て行って!!そ、そこまで何もかも私のせいにするなんて・・!ちゃんとした証拠を持ってきなさいよ!落馬事故も!教会が焼けた事件も!私がやったって言う証拠が揃ったら・・・そしたら・・認めてやるわよっ!」
グレースは相手が伯爵家で時期領主になるエドガーだと言うのに、ヒステリックに乱暴な口調で怒鳴りつけた。
「グレースッ!君は・・仮にも・・・エドガー様に何て口を聞くんだっ?!」
ルドルフはグレースのエドガーに対する態度が我慢出来なかった。
「いい、大丈夫だ。ルドルフ。」
しかしエドガーは穏やかに言う。そして次に背中を向けて震えているグレースに声を掛けた。
「グレース。また来るよ・・・今度は言い逃れ出来ないような物的証拠を揃えてね。」
「・・・・。」
しかし、グレースは何も答えない。エドガーは溜息をつくと言った。
「帰るぞ、ルドルフ。」
「あ・・は、はい・・・。」
そしてエドガーとルドルフはグレースの部屋を出た―。
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