第10章 2 愚かなグレース

「ここがグレースの部屋か・・・。」


「そうみたいですね・・・。」


エドガーとルドルフは今、グレースの部屋のドアの前に立っていた。ドアのプレートにはグレースの名前が刻まれいる。


「・・・。」


 ルドルフは心を落ち着かせると、ドアをノックした。


コンコン


すると・・・。


「何よっ!私の事は放っておいてと言ってるでしょう?!早くどこかへ行ってよっ!」


部屋の中からヒステリックに喚くグレースの声が聞こえ・・・何か投げつけたのだろうか、ドスンとドアに振動が伝わった。ルドルフとグレースは一瞬顔を見合わせ、互いに頷きあうと、ルドルフがドア越しから声を掛けた。


「グレース・・・僕だよ。ルドルフだよ。」


すると一瞬の静けさから、次にドア越しにグレースの声が聞こえてきた。


「え・・?う、嘘・・・。ルドルフなの・・?」


その声は・・先ほどヒステリックに叫んだ時とはまるきり別人のような声だった。


「そうだよ。・・・グレース。君に大事な話があって・・・ここまで来たんだ。」


ルドルフは出来るだけ感情を殺しながらグレースに語り掛ける。


「大事な話・・・?それって一体・・・?」


「その話をする為にも・・ここを開けてもらいたいんだけど・・。」


「わ、分かったわ。ちょっと待ってね。あ・・あのね・・・ルドルフ・・・。」


何処か甘えたようなグレースの声が聞こえる。


「何?」


「私の姿・・・見ても驚かないって・・約束してくれる・・?」


ルドルフとエドガーはその言葉を聞いて一瞬顔を見合わせた。噂によるとグレースは火傷によるケロイドで・・・二目と見られ無い顔になってしまったと聞いている。


「うん、分かったよ。約束する。」


「本当・・?それじゃ・・・今開けるわね・・・。」


ガチャガチャ


内鍵でもついているのだろうか?ドアの外で鍵を開ける音が聞こえてくる。


ギイ~・・・・


やがてドアがゆっくり開けられ・・・。


ガッ!


エドガーがドアを手と足のつま先で押さえた。


「あ・・貴方は・・エドガー様っ!」


グレースの顔に怯えが走る。エドガーはフィールズ家の人間だ。グレースが警戒するのも無理はない。そして怯えたようにルドルフを見上げる。


「ル・・・ルドルフ・・・。」


「久しぶりだな、グレース。君にはどうしても話を聞かなければならないことがあるんだ。」


「!」


ルドルフとエドガーはグレースの返事も聞かないうちに部屋に入り込むと、エドガーはガチャリと内鍵をかけてしまった。


「な、何するんですかっ?!」


火傷の顔を半分髪の毛で隠すようにしているグレースはエドガーに抗議した。


「悪いけど・・・グレース。君にはどうしても聞きたいことがあるんでね・・話を聞くまではここから出せないんだ。」


「エドガー様。椅子がありましたよ。」


ルドルフはグレースの部屋の隅に置かれた2つの木の椅子を持ってくるエドガーに勧めた。


「ありがとう、ルドルフ。」


エドガーとルドルフは椅子に座ると、グレースもついに観念したのかデスクの椅子に座ると2人と対峙した。


「な・・・何なんですか・・・?次期領主様・・・私に話って・・・。」


グレースはルドルフから視線をそらせ、エドガーを見た。その身体は小刻みに震えていた。

本当であればグレースはルドルフと話がしたかった。けれどもルドルフは恐ろしい程鋭い目でグレースを見つめている。そしてその瞳には激しい憎悪の念が宿っていた。


 グレースは心の中は恐怖で震えていた。


(どうして・・どうしてルドルフはあんなに怖い目で私を睨むの・・?私が一体何をしたっていうのよ・・・・。)


愚かで自分本位のグレースは・・・ルドルフが何故これほどまでに激怒しているのかも・・・そしてエドガーの中にくすぶっている怒りの炎にすら・・気づいてはいなかった―。


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