第9章 13 2人の決意
「ルドルフ・・・・久しぶりね・・・。」
マーガレットはルドルフを見ると弱弱しく微笑んだ。
「はい、お久しぶりでございます。奥様・・・。」
ルドルフは頭を下げた。久しぶりに会ったマーガレットはルドルフの知る以前の姿とはまるで別人だった。以前はマーガレットはとても美しい女性だった。ハリスと結婚する前は『カウベリー』一の美女として、多くの男性たちから求婚されたと言う逸話があったほどだ。しかし・・・今の姿は見る影も無かった。
骸骨のように青白く痩せ細った身体。青い瞳は落ちくぼみ、輝きを失っていた。
髪は所々白くなり、艶をすっかり無くしている。
いかに愛するヒルダを失ったことで・・、マーガレットの気力を根こそぎ奪い去ってしまったかが見て取れた。
(奥様がこんな風になってしまったのには・・僕にも責任があるんだ・・!僕が・・グレースの悪巧みに気付いていれば・・・止める事が出来れば・・こんな事には・・!)
「も・・申し訳ございません・・でした・・奥様・・・。」
ルドルフは涙をこらえてマーガレットに謝罪した。
「ルドルフ・・・。」
エドガーはポツリと名を呼んだ。
(恐らくルドルフは自分を責めているのだ・・・グレースの悪事を止められず、ヒルダを守れなかった事を・・・!)
だが、エドガーがルドルフをここに連れてきたのはマーガレットに謝罪させる為では無い。今のヒルダを知るただ一人の人物だったから・・『ロータス』で暮らすヒルダの様子を離して聞かせてあげれば、少しはマーガレットの《 生きよう 》という希望につながるのでは無いかと思った為である。
そしてマーガレットはエドガーの思ったとおりの事を口にした。
「ルドルフ・・・・何を・・謝るの・・?」
マーガレットは弱弱しく笑みを浮かべてルドルフを見た。
「え・・?」
「ルドルフ・・・貴方は今ヒルダと同じクラスなのでしょう・・・?お願い・・あの子の・・・私の可愛いヒルダの話を・・・聞かせてくれないかしら・・?」
か細い声でマーガレットはルドルフに頼んだ。
「わ・・分かりました・・・。」
ルドルフは袖で涙をぬぐうと、自分の知りうる限りのヒルダの様子を語った。
ヒルダはとても勉強が出来る事・・・特に親友と呼べる仲の良い女生徒がいる事。
リハビリを兼ねて、学校まで歩き・・帰りは親友と一緒に帰宅している事・・等々を丁寧に語った。
そんなルドルフの話をマーガレットは目を閉じて静かに聞いていた。やがてルドルフの話を聞き終えたマーガレットが言った。
「ルドルフ・・・どうか・・あの子を・・・ヒルダの事をよろしくね・・私はもう何も・・あの子にしてあげる事は出来ないけど・・・ルドルフがそばにいてくれれば・・安心出来るわ・・・。」
そして瞳を閉じてため息をついた。ルドルフとエドガーはマーガレットの今の言葉に不吉なものを感じた。
「母上、早く良くなって・・・俺と一緒に『ロータス』へ行ってヒルダに会いに行きましょう。あの町では誰に憚れることも無く・・・ヒルダと会えるのですよ?どうか弱気な事を言わないで下さい・・っ!」
エドガーはマーガレットの手を取ると強く握りしめた。
「そうですよ、奥様!ヒルダ様の為にも・・・どうか身体を治す事を考えて下さい!」
ルドルフは身体を震わせながら懇願した―。
マーガレットの体調を考慮して部屋を出たエドガーとルドルフ。
2人でエドガーの執務室へ戻る最中にエドガーは言った。
「ルドルフ・・・俺はどうしてもグレースをこのまま野放しにして置く事は出来ない。」
「ええ・・・僕も同じ気持ちです・・。」
「そうか・・・なら・・。」
エドガーはルドルフを見た。
「ええ、グレースの処へ・・今から行きましょう。」
ルドルフとエドガーは互いを見ると頷きあった―。
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