第9章 12 病人マーガレット
「ルドルフ・・・。今日は何か急ぎの用事は入っているか?」
窓の外を眺めていたエドガーはルドルフを振り返ると尋ねてきた。
「い、いえ・・?大丈夫ですが・・?」
「そうか・・・それなら母の処へ一緒に来てくれるか?」
「え・・?マーガレット様の処へ・・ですか?」
「ああ・・そうだ。手遅れになる前に・・。」
エドガーの顔は・・・真剣だった。
エドガーに連れられてルドルフはフィールズ家の広い廊下を歩いていた。
「もう・・母は車いすに乗ることも出来ないほど身体が弱り切っている。父は今、良い医者を探すために、あちこち探しまわっている最中なんだ。」
エドガーはルドルフの前を歩きながら今のマーガレットの状況を説明した。
「そうなんですか・・・?それで・・マーガレット様は・・大丈夫なんでしょうか・・・?良いお医者様は見つかりましたか?」
ルドルフの質問にエドガーは悲し気に首を振る。
「母の病気は・・回復するどころか、悪化の一途をたどっている。それも全ては・・・。」
そこでエドガーは言葉を切った。フィールズ家でヒルダの話をしてよい場所は決められていたのだ。それはエドガーの部屋と・・・マーガレットのいる部屋のみだったのだ―。
****
「ここが・・母の部屋だ。」
廊下を歩いていたエドガーが足を止めた。そこは真っ白な四角いドアの前だった。
コンコン
エドガーがドアをノックすると、カチャリとドアが開かれ、白衣を着た白髪交じりの男性が立っていた。
「これは・・エドガー様。マーガレット様に会いに来られたのですか?」
「はい、そうです。それで・・申し訳ないですが・・少しの間席を外しておいていただけますか?」
今マーガレットについている主治医はこの家の内情を知っている。そして必ずと言っていいほど、エドガーはマーガレットの元へやってくると席を外してくれるように頼んできた。
(きっと・・この方々は・・・あのお方のお話をされるためにやってきたのだろう。)
「はい、承知いたしました。私は・・・隣の部屋におりますので御用が住みましたらお呼びください。」
そして恭しくエドガーに頭を下げると、主治医は部屋を後にした。
「ルドルフ・・・それじゃ・・部屋の中に入ろう。」
エドガーはルドルフを見ると言った。
「は、はい・・・で、でも・・いいんですか?僕は・・・身内でもないのに・・病人のマーガレット様のお部屋に入っても・・。」
ルドルフはためらいがちにエドガーに尋ねるが、エドガーは黙ってうなずくと部屋の中へ足を踏み入れた。そこでルドルフもそれに習って、エドガーの後をついていく。
マーガレットの部屋はとても日当たりの良い部屋だった。部屋のレースのカーテンからは惜しみなく太陽の光が差し込んでいる。
ベッドから離れた場所には薪ストーブが置かれ、赤々と揺れる炎が部屋を暖めている。豪奢なカーペットが敷かれた上には窓際にピタリと寄せられるように大きなベッドが置かれ、マーガレットはそこに横たわっていた。ベッドサイドには水差しが置かれている。
エドガーがベッドに近付くと、マーガレットが声を掛けてきた。
「エドガーかしら・・?」
その声はとても弱弱しく・・以前の元気な姿のマーガレットを知っているルドルフにとってはかなりショックだった。
「はい、そうですよ。母上。実は・・今ここにルドルフも来ているんです。」
「まあ・・・ルドルフが・・・?こっちへ来てくれるかしら・・ルドルフ。貴方の顔を見せて頂戴。」
促されて、ルドルフはマーガレットの傍に立つと挨拶をした。
「・・ご無沙汰しておりました・・マーガレット様・・・。」
ルドルフはマーガレットのベッドに近付くと、挨拶をした―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます