嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第8章 3 アレンからの提案

　マドレーヌが進路相談を受けてから1週間が経過した頃・・・。

放課後、ヒルダは職員室に進路相談の為に呼ばれていた。

「ヒルダ、君はとても頭が良くて優秀な生徒だ。君の成績なら大学進学だって夢じゃないが・・どうするのだい？」

担任教師のブルーノがヒルダの内申書を見ながら言う。

「はい、先生。私は・・高校卒業後は就職をするつもりです。私は・・入学金も授業料も支払っていく事は出来ませんので。」

淡々と話すヒルダにブルーノは溜息をついた。

「そう・・か・・。残念だな・・。だがヒルダ。君程の生徒なら奨学金を受け取ることだって可能だぞ？まだまだ男子学生のみに与えられてはいるが・・これからは時代も変わる。女性だって高い学力を身に着けるべきなのだ。この学園だって今では女子学生の半分は大学に進学しているのだからな。それに・・・正直に言うと、ヒルダ。君のその足では工場などで働くのは無理だと思うのだよ。」

まだまだ女性の就職が困難な時代であり、就職先は工場などの肉体労働に限られていた。

「はい・・そうですね・・。」

ヒルダは頷いた。

「どうだろう？ヒルダ。君の様に優秀な生徒を埋もれさせるのは実に惜しいと思っているんだ。奨学金を受けられる事が出来れば大学にも行けるし、大学を卒業すれば良い就職先にも出会える。良く・・考えておきなさい。」

「はい、先生。分かりました。」

そしてヒルダは頭を下げて教室を出て行った。そんなヒルダの後ろ姿を見てブルーノは再び溜息をつくのだった―。

　ヒルダは重い足取りでアレンの診療所へ向かっていた。今日はヒルダの足の診察日であった。

午後4時半―

ヒルダはアレンの診療所の扉を開けた。

「あら、ヒルダちゃん。今日は。今日は診察日だったわね。」

受付に座っていたリンダが声を掛けてきた。

「はい、そうです。今・・患者さんは誰もいないんですね。」

ヒルダは待合室をキョロキョロ見渡しながら尋ねた。

「ええ。ついさっき患者さんが帰って行ったのよ。丁度患者さんがはけた時間ね。運が良かったわねヒルダちゃん。すぐ先生に声を掛けて来るわ。」

リンダは受付の後ろの棚からヒルダのカルテを探し出すと、アレンの元へ持って行った。

するとすぐに診察室から白衣を着たアレン自らがヒルダを呼びにやってきた。

「ヒルダ。中へ入りなさい。」

「はい、アレン先生。」

ヒルダは左足を引きずりながら診察室の中へと入って行った―。

「ヒルダ。打身の痛みはどうだ？」

アレンはオリエンテーリングで斜面を滑り落ちて怪我を負ったヒルダを気遣って尋ねてきた。

「はい、もう打身の方は大分良くなりました。」

「そうか・・・しかし、知らせを聞いた時は本当に驚いたよ。だが、幸いな事に左足は無傷で本当に良かったと思っている。」

アレンは温湿布を作りながらヒルダに声を掛けた。

「はい、私もそう思います。」

ハイソックスを脱ぎながらヒルダは言う。

「よし、温湿布が出来た。ヒルダ、受け取りなさい。」

「ありがとうございます。」

ヒルダは良く蒸されたタオルを火傷しないように受け取ると、自分の左足の膝下部分にタオルを乗せてマッサージを始めた。そんな様子のヒルダを見ながらアレンは尋ねた。

「そう言えば、ヒルダ。今日はいつもよりもここへ来る時間が遅かったな？何かあったのか？」

するとマッサージをしていたヒルダの手がピタリと止まり、浮かない顔つきになった。

「どうしたんだ？ヒルダ。」

アレンは不思議に思い、ヒルダに尋ねた。

「はい、実は・・今日学校で進路相談があったんです。私は・・・就職を考えていたのですけど、先生には奨学金制度で大学進学を進められたんです。だけど・・高校を卒業すると私は家からの支援金を打ち切られてしまいます。本当は進学したいですけど・・諦めるしかないかと思って・・・。」

ヒルダは悲し気に俯いた。するとそれを聞いたアレンが言った。

「ヒルダ、いいじゃないか。奨学金・・受けられるように頑張ってみなさい。」

「え・・？でもお金が・・・。」

するとアレンが言った。

「ヒルダ。もし奨学金を受けられて進学できたなら・・・進学後はここでアルバイトをしないか？実はヒルダを私の診療所で雇いたいと以前から思っていたんだよ。」

「アレン先生・・・・。」

それはヒルダにとって願ってもない提案だった―。