第7章 1 マイクの汚点

 オリエンテーリングまで残り1週間が切ろうとしていたある日―

それは突然の出来事だった。


バンッ!!


「みんな、何で僕の言う通りに出来ないんだっ?!」


ホームルームで教壇に立ったマイクがテーブルを激しく叩いた。マイクの態度にクラス中はどよめいた。


「やだ・・・何?今のマイクの態度・・。」


「びっくりしたな~。」


「あいつ、最近イライラしておかしかったから・・・。」


クラス中のざわめきをものともせず、マイクは声を張り上げた。


「静かにしてくれっ!いいかい?僕が初めてオリエンテーリングのホームルームを開いた時に何て言ったか覚えているかい?」


「え?あいつ何か言ったか?」


「さあ・・?」


クラス中の生徒はひそひそ話し合っているが、誰からも返事が返ってこない。それに痺れを切らせたマイクがとうとう自分から言った。


「いいかい、皆!僕はこう言ったんだ。ペアになった者同士で親睦を深めておくようにって。それなのに・・誰も僕の言うとおりにしていないじゃないかっ!」


そしてマイクは一番前の席に座る男子生徒を指さした。


「ニック!君はミカエルとペアになったよね?なのになぜいつもヨーゼフとゲイルと一緒にいるんだい?それにパトリス!君はジェインとペアだろう?何故ベスと常に行動してるんだよっ!」


「そ、そんな!酷い・・・。」


名指しされたベスは目に涙を浮かべた。


「おい!マイク・・・お前、ふざけるなよっ!そもそも俺たちの意見も聞かずに勝手にくじ引きでペアを組ませたのはお前だろうっ!」


パトリスは怒りで顔を赤く染めると言った。


「そうだ!そうだ!」


「あまりにも横暴よ!」


「俺たちを勝手にコントロールするなっ!」


今やクラス中にはマイクとクラスメイト達の怒声が響き渡っていた。


「ねえ・・・マイクったらどうしちゃったのかしらね。」


隣の席に座るマドレーヌがヒルダに声を掛けてきた。


「え、ええ・・そうね・・。本当に一体どうしたのかしら・・?」


ヒルダも首を傾げた。1年の時もヒルダはマイクと同じクラスだったが、今のような性格ではなかった。何故2年に進級した途端、このような事になってしまったのか、ヒルダには到底検討がつかなかった。


(でも・・・私には関係ない事だわ・・。)


マイクと激しく言い争いをしているのは名指しされた生徒と、ほんの一部の生徒達だけで、残りのクラスメイトは雑談しているか、真面目な生徒は教科書を読んでいるのが大半だった。


(ルドルフは・・・どうしているのかしら・・。)


ヒルダは自分の席よりも前に座っているルドルフの様子をそっと伺うと、彼は教科書とノートを広げて周りの喧騒を気にするふうでもなく勉強をしている。


(さすがはルドルフね・・・。ルドルフは・・やっぱり将来は大学へ進学するのかしら・・・・。)


その時―


ガラッ!!


教室のドアが勢いよく開けられ、担任教師のダグラスが中へ入ってきた。


「うるさいぞっ!お前たち、一体何を騒いでるんだっ!それにマイクッ!お前はクラス委員長だろう?何故騒ぎの中心にいるんだっ!」


ダグラスの怒声に教室中は一瞬で水を打ったようにシンとなった。


「全く・・・お前ら・・もう17歳だろう?少しは大人になれ。残りの時間は俺もここにいるから、オリエンテーリングの話し合いを続けろ。そしてマイク。」


ダグラスはマイクを見た。


「は、はい。」


「放課後・・・職員室に来い、分かったな?」


「はい・・・。」


マイクは項垂れて返事をした。そしてそんなマイクの様子をルドルフはじっと見つめていた。





 放課後―


マイクはむしゃくしゃした気持ちで迎えの馬車に乗り込んだ。


「お坊ちゃま・・・どうかされましたか?」


御者台の初老の男性が声を掛けてきたが、マイクは放っておいてもらいたかったので無視していた。


「では出発しますね。」


御者はマイクが返事をしないので、溜息をつくと馬車を走らせた。

マイクはイライラする気持ちで馬車の窓から外の景色を眺めながら思った。


(くそ・・・っ!みんながくじ引きの相手とペアで行動しないから・・僕もヒルダの傍にいられないじゃないか・・・っ!挙句に先生からは呼び出されて注意を受けるし・・!)


先生に呼び出されて注意を受ける・・・。これはまさにマイクにとって人生初の汚点と言っても過言ではなかった。

今回、何故このような目にマイクがあったのか・・・それは全てヒルダが原因だった。いくらマイクがヒルダと一緒に行動しようと持ち掛けても、一緒にいるマドレーヌが他のクラスメイト達だってペア同士で行動していないのだから、必要ないと言ってマイクを近づかせない。そしてヒルダもまたマイクを避け続けていたからだ。


(どうして・・・どうしてヒルダは僕から逃げようとするんだ・・?)


マイクは悔しそうに爪を噛むのだった―。



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