第4章 4 エドガー・フィールズ

「初めまして、ヒルダ・フィールズです。狭いアパートメントですがどうぞ中へお入りください。」


「そうだね。お邪魔しようかな。」


足を引きずりながら廊下を歩いていると、後ろを歩くエドガーに声を掛けられた。


「その左足が・・・落馬事故で怪我をした足だね?気の毒に。」


大して心のこもらない言葉を掛けられたがヒルダは返事を返した。


「いえ、以前に比べるとかなり足の具合も回復してきました。お気遣いありがとうございます。」


そしてヒルダは廊下の突き当りの左の部屋へとエドガーを案内する。


「こちらがリビングです。狭いですがご容赦下さい。」


エドガーは養子であっても、正式なフィールズ家の跡取りだ。一方、ヒルダは爵位を奪われた、ただのヒルダ・フィールズ。なのでヒルダは丁寧な対応を務めた。


「それじゃ、座らせてもらおうかな。あ、そうそう。そんなかしこまった話し方別にしなくてもいいよ。年だって1歳しか違わないし、君だってもと伯爵令嬢だったんだからさ。」


エドガーはソファに座るとヒルダに言った。ヒルダもエドガーの向かい側のソファに座り、テーブルの下でギュッとスカートを握りしめた。

もと伯爵令嬢・・・その言葉はヒルダの心を大きくえぐる。


そこへポットにお湯を入れ、お茶のセットをトレーに乗せたカミラが現れた。

エドガーの前のテーブルにトレーを置くと、ヒルダはエドガーに挨拶をした。


「はじめまして、カミラと申します。こちらでヒルダ様と暮らして居ります。どうぞよろしくお願い致します。」


するとエドガーはジロジロとカミラを値踏みするような目つきで見ると言った。


「ふ~ん・・・君がカミラか。父には内緒で母と手紙のやりとりをしていたという・・。ヒルダの事が心配で、あの屋敷から出て今はここで一緒に暮らしているんだろう?仕事は確か・・ヒルダの同級生の幼い弟妹の子守・・だったよね?」


「「!」」


ヒルダとカミラは驚き、エドガーの顔を見上げた。


「な・・何故、その事を・・エドガー様はご存じなのですか?」


カミラは声を震わせながらエドガーに尋ねる。


(何故・・・何故、彼は私と奥様の手紙の内容を知っているの・・・?あの手紙は私と奥様の2人だけの秘密の手紙なのに・・・。)



「カミラ・・・。」


ヒルダは隣の席で青ざめた顔で震えているカミラが心配になり、そっと声をかける。


「ああ、何故俺がこの話を知っているかだって?それはね、俺が母と君の手紙のやり取りを見たからだよ。あ・・正確に言えば、盗み見た・・かな?」


「ど、どういう事でしょうかっ?!」


思わずカミラが声を荒げるとエドガーは言った。


「まあ、まずは少し落ち着こうよ。お茶のセットを持ってきてくれたんだろう?俺にいれてくれないかな?4時間も汽車に乗ってきたから喉もカラカラなんだ。」


大して手紙を盗み見した事を悪びれた様子も無いエドガーにカミラはこれ以上言い返す事は出来なかった。何故なら彼は伯爵であり、カミラはただの平民なのだから。


「申し訳ございません・・・今お茶を淹れさせて頂きます。」


カミラが茶葉を茶こしに入れ、お湯を注ぐ様子を見ながらエドガーは言った。


「このアパートメント・・・狭いけど、きれいに使っているし、日当たりもいいからヒルダ。君にとってはいい住処なんじゃないかい?階段の段差も少ないから足の不自由な君にはいい物件だと思うよ。良かったじゃないか・・・街灯も多い場所だし、にぎやかな大通りもある。近くには交番もあったね。治安的には・・悪くなさそうだ。うん、少し安心したよ。」


「え・・?」


ヒルダは顔を上げた。カミラもエドガーを見た。


エドガーの言葉には・・・どこかヒルダたちの生活を気に留める様子があった―。

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