第3章 3 重い怪我
(え・・・?ここは・・・?)
ヒルダが目覚めると、見覚えのない天井が飛び込んできた。辺りをキョロキョロ見渡してみると、自分の部屋では無い。そしてパイプベッドに寝かされていることに気が付いた。
「わ・・私、一体・・・。」
そして身体を起こそうとしたとき、左足に激痛が走った。
「い・・痛いっ!」
あまりの激痛に驚き、その時になって初めて気が付いた。左足がベッド柵から上に吊られ、ギプスで覆われているのである。
「え・・・?私の足が・・・・。」
その時、ヒルダが起きた気配を感じたのか、父と母がヒルダの部屋に飛び込んできた。
「ヒルダッ!目が覚めたのねっ!」
母が泣きながらヒルダの身体を抱きしめた。
「ヒルダ・・・良かった・・このまま目が覚めないのではないかと思ってしまった・・・。」
父、ハリスも泣いていた。そこへ男性医師が部屋へ現れた。
「目が覚められたようで何よりですね。」
「先生!有難うございます。」
「本当に・・一時はどうなるかと思いました。」
マーガレットとハリスは交互にお礼を言うが、何故か男性医師の表情は硬い。そしてヒルダの顔をチラリと見ると言った。
「ヒルダさん、目覚めたばかりで申し訳ないけど、少しお父さんとお母さんをお借りするね?」
「はい、分かりました。」
ヒルダはベッドに横になったまま返事をした。
「さ、それでは行きましょうか?」
男性医師に促され、父と母は部屋を出て行き、ヒルダは再び1人になった。1人になってヒルダは自分の身に何が起こったのか思い出してみた。
(そう言えば・・・あの時・・・蜂が突然襲ってきて・・馬が暴れたんだっけ・・そして私を乗せたまま走り出して・・私は振り落とされて・・・それで怪我を・・。あ!そう言えば・・ルドルフ・・・ルドルフはどうしたのかしら・・。)
ヒルダの脳裏に馬から振り落とされた瞬間、ルドルフが今にも泣きそうな顔で必死になってヒルダに手を差し伸べている姿を思い出した。
(そうだった・・・ルドルフは私を必死で助けてくれようとしてくれて・・間に合わなかったんだわ・・・。)
そしてぽつりと呟いた。
「ルドルフ・・・どうしているのかしら・・・。」
その頃、診察室では・・・。
「何ですって?!ヒルダの足は・・もう以前のように元通りに歩けないですって?!」
マーガレットが真っ青な顔で叫んだ。
「そ、そんな・・先生っ!あの子はまだ15歳ですっ!それに・・婚約者だっていないのにっ!」
ハリスも顔面蒼白で叫ぶ。
「貴方っ!今、そんな話・・必要ですかっ?!」
マーガレットは涙目になってハリスを責める。
「先生っ!左足にマヒが残るとは・・・一体何故なのですかっ?!」
すると男性医師は沈痛な面持ちで話し出した。
「ヒルダさんは・・・複雑骨折をしてしまったのですよ。その際、折れた骨が足の大事な神経を傷つけてしまって・・・もとに戻らなくなってしまったのです。補助杖を使えば歩くことは出来ますし、日常生活は1人で送ることは出来ますから・・・。」
「そ、そんな・・・!杖を突かなければ歩けないなんて・・・!かわいそうなヒルダッ!」
マーガレットは泣き崩れてしまった。
「ヒルダ・・・何て事だ・・。これではもうお前は・・・誰にも嫁の貰い手が無くなってしまったよ・・・。フィールズ家の子供はお前しかいないのに・・。なんて酷い話なのだ・・・っ!」
「酷いのは貴方ですっ!無神経なっ!あ、貴方はヒルダが心配ではないのですかっ?!鬼っ!貴方は鬼のような人ですっ!」
マーガレットはとうとう我慢が出来ず、ハリスをなじりだした。
「お・・お前いくら何でも言っていい事と悪いことがあるだろうっ?!」
「お2人共・・。落ち着いて下さいっ!!」
こうして暫くの間、診察室は大いに騒がしくなるのだった―。
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