第1章 12 ヒルダの初めてのお見合い

週末午前10時―



とうとうヒルダの御見合いの日が来てしまった。朝から憂鬱なヒルダは自室の鏡の前でため息ばかりついていた。

そんなヒルダを見かねて、彼女の支度をしていたカミラが思いつめたように言った。


「ヒルダ様・・・いっそ、ヒルダ様は本日風邪を引いてしまったのでお見合いは延期にさせて下さいと伝えられてはいかがですか?」


「そんなのは無理よ・・・。例え、今日お見合いから逃げても先延ばしになるだけだから。この御見合いは無くなる事は無いのよ・・・。」


「そうですか・・・お気の毒なヒルダ様・・・。」


カミラが涙ぐむとヒルダは言った。


「違うのよ、カミラ。むしろ可哀そうなのは私ではなく、お相手のラッセル家のギルバート様よ・・・。」


ヒルダは溜息をつきながら言った。


「え・・・・?それは一体どういう意味でしょうか・・・?」


カミラは首を傾げるが・・・・その後、ヒルダの言葉の意味を知る事となる・・・。




 御見合い場所はヒルダの願いから、フィールズ家のバラ園にあるガゼボでする事になった。また、先方のたっての願いもあり、お見合いは2人きりで会う事になったのだが、付き添いのメイドとしてカミラが2人の側に控える事に決まった。その事はヒルダに取ってはまたとないチャンスでもあった。


ヒルダは真っ白のランタンスリーブのブラウスに、ワインレッド色のリボンを襟元にに結び、フリルたっぷりの丈の長いジャンパースカートと言ういで立ちで御見合いに向った。


カミラと2人でガゼボへ向かいながらバラ園に置かれたベンチを見るとヒルダは言った。


「ねえ、カミラ。ここで休んで行きましょう?私・・・美味しいお菓子を持ってきたのよ?2人で食べましょう?」


ヒルダはベンチに座ると、ポケットからセロファンに包まれたカップケーキを2個取り出すと言った。


「な、な、何を言っておられるのですか?ヒルダ様。お相手の方がお待ちなのですよ?すぐにガゼボに向わないと。」


「いいのよ。だ、だって・・・私、これからお見合い相手に嫌われる為に・・あ、悪女を演じるのだから!」


ヒルダは顔を真っ赤にさせながら言った。


「え・・?ヒルダ様が・・悪女を演じるのですか・・?」


黙って頷くヒルダを見てカミラは思った。


(こんなに心優しいヒルダ様が・・お相手の男性に嫌われるためにわざわざ悪女を演じるなんて・・・なんて面白いのだろう!)


「ヒルダ様、そう言うことなら私是非協力させて頂きます!どんどん嫌がる事をお見合い相手の方の前で私に命じて下さいねっ!」


カミラは目をキラキラさせながらヒルダの両手を握りしめるのだった—。




「遅い・・・一体いつまで待たせるつもりなんだろう・・・?」


其の頃、ガゼボではすっかり待ちぼうけを食わされたギルバートがプレゼントの花束を抱えながらイライラしていた。

すると予定時刻より30分以上経過してからようやくヒルダがカミラを伴って現れた。そのあまりのヒルダの美しさに、あれ程イラついていたギルバートの気持ちは嘘のように消えていった。


「初めまして、ギルバート・ラッセル様。」


「ああ、お待ちしておりましたよ。本日は私の我儘を聞いて下さり、お見合いの場に出て来て頂いて本当にありがとうございます。」


ギルバートは深々と頭を下げ・・・ヒルダの右手を取り、甲に口付けしようとして

ヒルダはその手を振り払った。


「え・・・?」


ギルバートはヒルダの行動に一瞬驚いた。しかしヒルダはそれを意にも介さずにお辞儀をしながら言った。


「どうもお待たせして申し訳ございませんでした。つい、庭のバラが見事過ぎて思わず見惚れてしまい、迷子になってしまったものですから・・。」


「え・・?ま、迷子・・・ですか?ご自宅の庭で・・ですか・・?そ、そうなんですか・・。迷子に・・・。それで・・・フィールズ譲・・貴女の事をヒルダと呼んでも構いませんか?」


ギルバートはすぐに笑みを浮かべると言った。


「嫌です。」


ヒルダは即答した。


「へ?い、今・・何と・・?」


するとヒルダは露骨に嫌そうな顔を見せると言った。


「私の事はヒルダでは無く、ヒルダ姫と呼んで頂けませんか?そうでなければお返事はしません。」


「え・・あ、は・はい!で、では・・ヒルダ姫・・。私に是非このお庭の案内をして頂けませんか?」


ギルバートはヒルダの顔をじっと見つめると言った。


「嫌です。面倒な事はしたくないのでそこにいるメイドのカミラと一緒に行って下さらない?」


ギルバートは信じられないと言わんばかりの目でヒルダを見た。

そしてその目には・・・嫌悪感が既に宿っていた—。


その後もヒルダはギルバートの前でカミラに文句を言ったり、ギルバートの話を聞こえないふりをしたりと・・・散々な態度を取り続け、ついにギルバートは席を立つとヒルダに言った。


「あ、あの・・・疲れたので私はこれで失礼致します!の、後程今回のお見合いの話については両親を通してお返事させて頂きますので・・・。」


そしてそそくさとギルバートは帰って行った―。









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