第十六話 部族会談で喧嘩を売る
焼き上がった肉を持ってテント内に入り、殲滅戦に向けた作戦会議を行った。
簡単に説明すると、敵の指揮官を狙撃で処理していく。
昨夜の部隊と同じ規模なら、騎兵は指揮官クラスの数人だけだろう。歩兵よりも高い位置にいてくれる分狙いやすいし、目印になってくれることだろう。
その後は、マップ上に標的を共有することができるレーザー照準器を使い指示し、魔法使いから先に処理していってもらう。
スポッター役のティエラには認識阻害の他に、狙撃中の護衛やグレネードでの撹乱をしてもらう。
ドラドは側面から、膝から太腿の間を狙って一掃してもらう。
狙撃を警戒して前面に盾を掲げられても大丈夫だし、関節がある膝周辺の装甲は他の部分よりも薄いはず。
実際に、自分の甲殻鎧風のボディーアーマーを見たから間違いないと思う。
俺はレーザー照準器での指示や、ドラドがなぎ倒した兵士の介錯役である。
狙撃の方向を悟らせないように狙撃にも参加するし、背後に回っての挟撃も行う予定だ。
馬が逃げるようなら確保する予定だが、逃げなかったらエルフのご飯になってもらおう。
人間の死体はできるだけ綺麗な状態で確保したいな。弾薬分のお金を回収させてもらうという意味でも、偽装工作や後始末のしやすさという意味でも綺麗な方がいいだろう。
懸念があるとするならば一つだけ。
現在所持している【幻想通貨】が足りるかどうかという点だけだ。
弾薬含む装備を購入するためのゲーム内の通貨で、教会に設置された懺悔室でのみ両替ができるらしい。
つまり、いくら異世界の通貨である【ディネ】を持っていても、両替して【ファム】に買えなければ補給が止まる。そして無力な奴隷種族である俺は死ぬ。
通貨問題もあってドラドにM134を使わせられないんだよな。可愛いモフモフに我慢させてしまい、とても申し訳なく思っている。
ドラドとの約束を守るためにも、なるべく早く教会に行きたい。
さて、作戦会議が終わった後は装備の確認だ。
俺はP90TRから、7.62×51mm NATO弾を使用するバトルライフルに変更する。
どれにするか悩んだけど、今回は「H&K HK417」を使うことにした。ドットサイトとサプレッサーを装着し、状況次第で狙撃もできるようにする。
マップ上で標的を共有できるレーザー照準器は、サブ装備の「HK45T」に取りつけた。もちろん、サプレッサーとドットサイトは標準装備だ。
「うーむ……」
「ドラド、どうしたの?」
「おれも変えようかな!」
「……何に?」
「ライフルだ!」
あれ? 意外にまともな意見だ。
「でも、ミニミがあるじゃん。ライフルはいらないんじゃないかな?」
「狙撃というものをやってみたい!」
「そっちか! まぁ機関銃使うまでは暇だもんな。……本当はギリギリまで気づかれないように隠れてて欲しいけど」
「ティエラに魔法をかけてもらうから大丈夫だ!」
「それもそうか。それじゃあ何にする?」
「見せてくれ! 直感で決める!」
「……いや、ドラドにピッタリなライフルがあるんだ」
魔法は声を発したら気づかれるって言ってたから、できるだけ大きな音を出してもらいたくはない。サプレッサーをつけていても気づく者はいるだろうから、大口径ライフルという選択肢を消させてもらう。
大変心苦しいが、作戦のためなのだ。許して欲しい。
「……なんだ?」
「自動消音狙撃銃という、銃も弾薬も専用に造られた優れものだ」
「どんなところが?」
専用と聞いて興味を持ってくれたみたいだ。
「『VSS』と言って、9×39mm SP-6という専用の亜音速弾を使用する狙撃銃なんだ。射程は短いけど、当たれば威力が高く、抜群の消音性を持っているんだよ。パチッ! って音がするくらい静かだから、ドラドの任務に支障が出なくていいと思うんだ! どうだろう?」
「……射程が短いのか? おれの弾が当たらないんじゃないか?」
「そんなことはない。そもそもそんな遠くにいるうちから攻撃しないよ。ギリギリまで油断してもらわないと逃げられるじゃん! 勝利条件は撃退ではなく、殲滅だからね!」
「……見せてみろ!」
――よっしゃーー!!!
「どうぞ、こちらです!」
《コンテナ》を開いて、「VSS」を取ったらすぐに閉める。目移りはさせん。
「なんか小さく感じるな」
「銃身が短いからじゃないか?」
ドラドの狙撃銃のイメージはカグヤの「M82A1」か、昨夜俺が使った「L96A1」から来ているから、二〇〇mmしかなければ短く感じるだろう。だいたい三分の一くらいだもんな。
「本当に威力が高いんだろうな?」
「当たれば鋼鉄の鎧も貫通すること間違いなし! 全てはドラドの腕次第だ!」
「任せろ!」
ふと思う。
カグヤに持たせてゲリラ戦を行ったら、正しく鬼に金棒じゃないか?
それに加え、ティエラの認識阻害魔法……。うん、最強だ。俺たちは陽動をしていればいい。
一瞬作戦を変更しようかと思ったが、プランBとして取っておくことにした。
それからカグヤの装備も変更する。ドラドのこともあり、できるだけ静かに攻撃できる方が魔法と勘違いしてくれそうだと思ったからだ。
よって、今回は「M82A1」の代わりに「MSR」という狙撃銃を使ってもらう。
一,〇〇〇mまでであれば高性能な軍用のボディーアーマーを貫くことができる「.338ラプア・マグナム弾」を選択し、狙撃力を遺憾なく発揮していただく。
「じゃああとで偵察して、トーチカを造る計画をしよう!」
「今じゃないのか?」
「どうやらお客さんが来たみたいだからね」
「なるほど! 護衛は任せろ!」
「お願いね!」
「おう!」
可愛い……。
ニコニコとご機嫌な様子のドラドを伴って、テントに近づくエルフ一行を迎える準備を整える。
ちなみに、「VSS」は《カーゴ》に仕舞われ、ドラドの手にはテーザー弾が込められた「M870」が。
実弾でないのは、エルフに配慮した結果だ。貢ぎものとして監視されているのに、殺さないように配慮しているのだ。感謝して欲しい。
「夜分遅くに申し訳ありません」
表情を作ってから話せよ。
「いえいえ。時間がないと言ったのは私ですからね。――それで? どのような結果になりましたか?」
「そ、そうですね……。未だに信じられないのですよ。その……戦闘力があるかどうかが……」
「――あぁ! 【落ち人】だからですね? うーん……、でも許可を求めているわけではないのですよ」
「……? それはいったいどういうことでしょうか?」
「伝令になってもらった彼には、『猶予をください』という言い方と『提案』という形で話をさせていただきましたが、私の配慮が正確に伝わっていないようですね」
「配慮とは……? 無関係の村人を巻き込むことが配慮と仰るのですか?」
「ふふっ! はははっ! 面白いっ! 面白すぎるっ!」
「貴様ッ! 何がおかしいッ!」
村長と一緒に来たエルフのうち、懺悔をさせてあげたエルフとは別のゴツいエルフが威嚇してきた。
だが、笑えるのだから仕方がない。
「村長、失礼な若造が話し合いの場にいますね」
俺のことじゃないよ?
「それは貴殿のことでは?」
「はぁ……やれやれ。忘れているんですか? 私は『オラクルナイト』ですよ? ここにいる誰よりも立場が上なんですよ? 貴様? 誰に向かって口を聞いているのか分かっているか、もう一度よく考えてから発言してもらいたい」
「――ッ! 若い者が申し訳ありませんでした!」
「村長っ!」
「黙れっ!」
かばい合いとは素晴らしいと思うが、それなら最初から口に出すのを我慢すればいいと思う。
「失礼な若造が気になっている理由を説明させてもらってもよろしいですか?」
「この――」
途中で村長に伸されたせいで最後まで聞けなかったな。せっかく、戦闘力があるかどうか証明してあげようと思ったのに。
「では静かになったところで改めて説明させていただきます。彼には後ほど教えて差し上げてください」
「かしこまりました」
「お願いしますね。それで笑った理由ですが、この村に無関係な人はいません。聞いたところによると、ドラゴンに滅ぼされた国の難民がいるそうですね? 自国の王族を売り渡すことで安全を買おうとする非国民を始め、オラクルナイトを貢ぎものにしようとする蛮族しかいない。全員が人身売買に加担している犯罪者だ」
「あんたに何が分かるッ! 王族は何もしてくれなかった! それなのに……逃げた先でも王族のせいで苦しまなければいけないのか!?」
監視しているエルフのうちの一人が話しに割り込んできた。
「何も……ね。じゃあ、あなたたちはドラゴンに勝てるんですね? 素晴らしい! ドラゴンに勝てる戦士がいるなら、【聖王国】の兵士ごときに怯える必要はない! あなた一人で村を守れますね! 村長! 問題解決ですよ!」
「俺は……普通のエルフだ!」
「だから? まさか自分ができないことをやれと言っているんですか? あなたたちの国に残された唯一の王族は普通の女性だ! 恥を知れっ!」
「クソっ! 【落ち人】のくせに! 偉そうにッ!」
「やれやれ。エルフってそれしか言えないんですかね。その【落ち人】の配慮のおかげで、まだ生きているというのに。さて、口だけのなんちゃって戦士は放って置いて続きを話しましょうか、犯罪者諸君?」
「続き……ですか?」
「えぇ。そこの伝令役のエルフに聞いていませんか? 神罰を受けないように、懺悔をする機会を与えてあげようと言っているのです。懺悔をするかしないかの『提案』を受けるかどうかを聞いたのであって、許可を求めたわけではないのですよ」
「……もし、受けないと言ったら?」
「私たちが助かるために全てのエルフを差し出すか、主神の元に送り届けます。現在のあなたたちの立場は、ただの犯罪者ですからね。被害者ぶった一番質が悪い犯罪者です」
だから、表情を作れって。ブチ切れる寸前じゃん。
「簡単でしょう? 女性一人を引き渡すよりも、家に閉じこもって大人しくしているだけなんだから。いつもやってるでしょ? 普通のエルフですもんね? 普通の生活しているだけで脅威も去って、同時に懺悔もできるなんて奇跡、なかなかないですよ?」
「――断るッ!」
今の今まで伸されていたエルフが剣を抜き放つ。が――
ダンッ!
ドラドが撃ったテーザー弾の前に倒れる。だが、まだ安心は出来ない。
マップ上では周囲全てが真っ赤だからだ。一人を除いて。
「村長、交渉決裂ということでよろしいですか? こちらとしてはどちらでもいいんですよ? ただ決裂した場合、手間が一つ増えるのが面倒なだけです。後背の安全確保という手間がね?」
「――その機会、ありがたく頂戴いたします!」
「村長っ!」「なぜっ!?」
「御英断感謝します。神の祝福があらんことを」
「失礼する」
「ではまた」
「……」
にこやかな笑顔であいさつする俺とは対照的に、村長は怒りを隠しきれない表情で負傷者と若者を連れて帰っていった。
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