第23話 頼りにできる者たち
事態はどうすれば好転するのか。そんなことを考えているうちに、朝になってしまった。
「きゃああああああああああああああああああ!」
俺のぼんやりした頭を覚ましたのは、朝一番のルーフェの悲鳴である。
無理やり覚醒した俺は、こちらに抱き着いてくるルーフェの身体を受け止めた。
「どうした!?」
「お、追っ手よ!大男が……!」
大男?冒険者か。昨日の間に見られていたのだろうか。
俺はとっさに矢を番えた。この距離なら、スキルが発動していなくても、首を狙うくらいはできる。
「お、おい、待て待て待て!俺だよコバ、ラウルだ!」
玄関の方向から声がする。俺の部屋は扉一枚を挟んで、部屋と玄関の廊下がある。その廊下に、見慣れた顔が両手を上げて立っていた。
「ラウル……?」
「誤解だ!俺は何もしてねぇ!ちょっと様子見に来ただけだって!」
様子って、どういうことだ?よくわからないが、とにかく俺はルーフェを落ち着かせようと、彼女の方を見る。
とっさに抱き着いてきたので気づかなかったのだが、彼女、素っ裸だった。
「ん、なっ……!?」
俺は固まった。視線で、ラウルの方を見た。彼も、さすがに婚約者がいる手前、視線は必死にそらしている。
ひとまず、ルーフェのの布団で身体を隠すことにした。
「……お恥ずかしい限りで……」
「いや、こちらこそ、何か……すまん」
ルーフェはひとまず着替えることとなり、俺は外へと放り出された。同じく放り出されたラウルと一緒に、部屋の前で座っている。
「多分、俺が来た時、あの子、湯浴みから出たところだったんだな。俺、合いかぎ持ってるから勝手に入ったらよ、出くわしちまって……」
それは、ラウルの間も悪いが、一番悪いのは自分だ。ルーフェの同居のことを伝えてさえおけば、こんなことにはならなかったかもしれない。
「……なんで様子見に来たんだよ」
「昨日さ、お前取って置きを捨てに来たろ?今まで何回も「捨てろ」っつったのに全然捨てなかったお前が急に捨てに来るからさ。なんかあったとも思うだろ」
俺という人間は、結構わかりやすい性分らしい。
「……そっか、そうだなあ」
「なんかあったのは、まああの子見りゃわかるよ。何があった?」
話してしまっていいものか。俺は言い淀む。
そんな俺の額を、ラウルはぶっ叩いた。
「いってえ!?」
「何抱え込もうとしてんだ、お前。そんなんまでソロになるつもりかよ?」
ラウルの俺を見る目は、いつになく真剣だ。
「厄介ごとなんだろ?だから昨日、俺に言わなかった。違うか?」
「いや、それは……」
「お前、俺をなめんなよ。冒険者はやめたけどな、お前の幼馴染をやめたつもりはさらさらないんだぜ?」
「ラウル……」
「厄介ごとなら言えっての。今までだってそうして来たろ?そんで、お前がない知恵出して、俺がぶっ飛ばしてきたじゃねえか。腕っぷしならまだお前にゃ負けねえよ?」
そう言って、ラウルは力こぶを作る。小さい山くらいに盛り上がっていた。俺には到底できない。
「いや、でもさ、アンネちゃんとか、サイカさんとか……」
「まあ、アンネやお義父さんは……俺が何とかするからよ」
急に不安になったが、この際吐き出してもいいだろう。
正直、俺自身どうすりゃいいか分からなかったしな。
覚悟を決めて、俺は話し始めた。
「これは、俺がゴブリン退治に行った時のことだ――――――」
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「着替え終わったわ…………なんで泣いてるの?」
ちょうど俺が事情を話し終えたのとルーフェが着替え終わったタイミングが同じになったようで、ラウルは男泣きしていた。
「…あ、あんた、た、大変だったんだなあ……」
「え、ええ……?」
「……こういう奴なんだ」
ひとまず、部屋に入る。閉め出されていたせいで、すっかり冷えてしまった。
「事情はコバから大体聞いた!なら、うち来いよ!」
「違うだろ、アンネちゃん家な」
「将来の俺の家だ!」
俺とラウルの漫才じみた話に、ルーフェは目をぱちくりさせている。
「い、いや、悪いわ。そんな見知らぬ人に迷惑かけるなんて……」
「だあーっもう!お前ら、そっくりさんか!」
ラウルが床をバンと叩く。床がミシミシという音を立てた。
「コバもあんたも、迷惑かけまいと抱え込むんだからもう……いいんだよ、人頼れよな!」
「つっても、サイカさんが納得するかどうか……」
「俺が説得する!」
絶対にこじれる。やるなら俺もついていこう。
「まあ、お義父さんなら、仕事も教えてくれるだろうし、アンネやお義母さんが食事作るから問題ないだろ。仕事も裏方なら、基本こもってるし安心」
まあ、確かに。レイラさんのところや、ギルドの冒険者などよりは安全性が高いかもしれない。
ラウルにしては、悪くない案である。
「お前じゃなくて、頼ってるの、完全にサイカさんだけどな……」
「いいんだよぉ!アイデアは俺だろぉ!?」
めっちゃアピールしてくるこいつを俺がいなしている様子を見て、ルーフェは笑った。
「なんだか、芸人の漫談みたいだわ……」
「なんだよそれ……」
ちょっと希望が見えたからか、彼女も元気が出たようだ。
まあ、あくまでサイカさんの胸先三寸なんだけどな。
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「いいぞ」
「早っ!」
サイカさんに恐る恐る伺いを立てに行ったところ、秒でオーケーをもらえた。
一応、詳しい事情は彼らにも話している。そのうえで住み込みで働かせてもらえないかということだったのだが。
「うちは裏方は母さんだけだからな。増員できるなら助かる」
「ええ、お義父さん、俺は……!?」
「お義父さん言うな。お前は力仕事担当だろ。品物の加工とかできんだろうに」
サイカ道具店では、仕入れに関しては父のサイカさん、接客は看板娘のアンネちゃん、そして裏で商品の加工をしているのが奥さんである。加工と言っても様々で、包装だったり、キズが付いているものを直したり。やることは様々だ。
ラウルの仕事は、基本的にはサイカさんの手伝いである。
「どうだい。できそうかい?」
「や、やります。やらせてください!一生懸命頑張るので……」
「うん。頼むよ」
こうして、ルーフェの就職先と下宿先は、あっさりと決まったのであった。
ひとまず、ほっと胸を撫で下ろす。
「どうした。なんだかんだ言ってさみしいのか?あの子、美人だったもんなあ」
彼女を任せた帰り道で、ラウルが絡んできた。こんな風に歩くのも久しぶりだ。
「違うよ。安心してんだよ。これで俺もクエストに専念できるからな」
「そういや、マイちゃんが言ってたけどさ、おまえ、筋肉猪狙ってるんだって?」
「おお。そうだけど?」
「何か……いい顔してるなあ、お前」
ラウルが俺の顔をまじまじと見ながら言った。
「なんだよ急に気持ち悪っ」
「だってさぁ、昔俺たちアイツに出くわしたことあったろ。そん時さぁ、町に帰ってきて、開口一番「二度と会いたくねえ」って同時に言ったんだぜ?」
「あったなあ、そんなこと」
「それが、「あいつは俺が倒す」ってんだから、人は変わるもんだね」
「……まあ、負けっぱなしってのも、いい加減嫌だしな」
ラウルの家の前に着き、ひとまず別れる。
「コバ!」
離れかけた俺に、ラウルが呼びかけてきた。
「頑張れよ!」
なんだか、無性に勇気が湧いてきた。
俺は一人じゃない。それを実感させられる。
クエストは一人じゃないと受けられないが、別にそれ以外で一人になる必要はないのだ。
俺は、腕を高くつきあげて、振り返らずに走って帰った。
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