スキル「単独行動」は最強でした。 ~今回でもう5回目のパーティ解散なので、いい加減諦めて俺はソロで冒険することにします。ボッチが発動条件なので、もうパーティは組めません(泣)~
第5話 初めてのソロクエスト ~事前準備編~
第5話 初めてのソロクエスト ~事前準備編~
朝、冒険者ギルドに行って、久しぶりにクエストボードを見る。
最近はパーティに直接依頼が来ていたから、掲示板などここ2~3年見ていなかった。
掲示板にあるのは、依頼先不定のクエストばかりだ。大抵素材採取や運搬、魔物の討伐依頼といったものになる。受けるのはほとんど駆け出しばかりなので、簡単なものが多い。かと思えば、逆に誰もできないくらいとんでもない魔物の討伐依頼とかもあったりするが。
そして、この掲示板で多くの依頼をこなしたり、大型魔物を討伐して評判が上がれば、ギルドから直接依頼を斡旋される。
この町でそこそこのパーティだった俺たちは、そう言った部類に入っていた。この方が掲示板よりも報酬が高いケースが多い。大抵、そういう依頼をするのは金持ちや国だからだ。
とはいえ、そう言った依頼は、俺一人になり、ラウルが冒険者を引退した途端にぱったりなくなってしまった。そして、俺個人への依頼はゼロ。何とも世知辛い。
ゴブリン退治、ゴブリン退治、荷物の運搬、ゴブリン退治……。掲示板に書いている依頼のほとんどがゴブリンで埋まっていた。俺は軽くうなったが、やめておくことにした。ソロで慣れるには採取系のクエストがいいだろう。決して、ゴブリンと一人では戦えないわけじゃない。こういうのはパーティのイロハを新人に学ばせるために取っておくものだ。
俺はざっと見た中から、自分にできそうなクエストを見つけた。ぱっとクエストの紙を取り、受付に受注の旨を伝えに行く。
「すいません、俺、このクエスト受けたいんですけど」
そう言って紙を受付嬢に渡す。彼女もこのギルドに来て、確か3年くらいか。ギルドの職員の顔は、なんとなく見慣れている。
「クエストですね。それではこちらに参加されるパーティメンバーを記載してください」
そう言われて、受付嬢に差し出された紙は、クエストを受けるメンバーを確認するものだ。原則、クエストの報酬は人数で等分することになっているが、中にはパーティ内で報酬をピンハネする冒険者もいるのだ。実際にもらった報酬が少ない場合、この紙に記載した人数をもとに、ギルドが報酬の支払いを保証してくれる。それは、ピンハネした奴をとっちめて支払わせる、なかなかに乱暴なやり口だが。
まあ、今の俺には関係ないことだ。俺は紙に自分の名前だけ書いて、受付嬢に渡す。
「じゃあ、これで」
「はい、では、クエストを受注……」
受付嬢はそこまで言いかけて、ぴたりと止まった。そして、俺の顔とクエストの依頼書を、交互に見やる。
何か、不備でもあったろうか?名前書くだけだろ?
「あの、コバさん、その……」
受付嬢は何か言いたげだが、同にもその言葉を口にしようとしない。
「どうかした?なんか問題でもあった?」
「いえ、手続きは問題ないんです、けど……」
彼女は依頼書をこちらに向けて、手で文章の一部分を指し示した。
「依頼主さんが……」
彼女の示す依頼主にはこう書いてあった。
「サイカ道具店」と。
しまった。依頼主の名前を、俺は見ていなかった。素材採取系のクエストで、そんなに簡単すぎず難しすぎないものを選んだつもりだったのだが。
依頼主はまさかの、ラウルが孕ませた女の子の道具屋だ。
きっとこの受付の子も、俺の噂を知っているんだろう。だからこそ、一瞬戸惑ったんだろうなあ。この子にも悪いことをしてしまった。
俺は頭を掻きながら、少し考えてみる。
依頼主のサイカ道具店は、俺も利用しているし、過去にこういう依頼を受けたこともある。アンネちゃんはもちろん、店の親父さんも、知らない仲ではないが。
果たして、俺が依頼を受けてしまって、いいものだろうか?
一瞬そう思ったが、そういえば俺は、そもそもラウルの話からアンネちゃんとも一切会っていなかった。
一度、彼女のところにも顔を出さなくちゃいけないとは思っていたけれど。
それに現実問題、今の俺がソロで受けられそうな依頼が、他になかった。
「……まあ、仕事は仕事だから。そういうのとは関係ないってことで」
俺は笑ってクエストの受注手続きを、改めてお願いした。
手続きをする受付嬢の表情の方が、俺よりも複雑だった。
クエストを受けた俺は、サイカ道具店へと足を運んだ。
必要な採取の確認と、そのために必要な道具を買いに来たのだ。
サイカ道具店は、このバレアカンの町で一番の道具屋で、ギルドの近くにある。一階では道具を、二階では装備を売っている。冒険者に必要なものはあらかた揃うので、利用者は多い。それに看板娘のアンネちゃんがいるのだから、他の道具屋や武器屋は苦しい戦いを強いられている。
*********************
道具店に着くと、アンネちゃんが相変わらず笑顔を振りまいて接客をしていた。彼女の笑顔は男だけでなく、お年寄りにも人気だったりするのだが。
なんだか、彼女の顔を見ていると、妙な気分になった。あの笑顔の女の子のお腹の中に、ラウルとの子供がいるのか……。
彼女が小さいころから知っている身としては、何とも言い難い。
おまけに、彼女の顔を見ると、ラウルと彼女が抱き合っている場面を想像してしまう。知り合いだけに、その想像は生々しかった。
あのおっぱいも、お尻も、ラウルの奴は堪能したわけだ。羨ましい気持ちという気持ちも多少はあるが、俺個人としては、「よくあの子に手だせたなアイツ……」という気持ちの方が大きい。妹みたいなもんなのに。
少し立ち止まって見ていると、アンネちゃんの方が俺に気づく。今まで見たことのないような戸惑った顔をして、彼女は俺に近づいてきた。
「こ、コバさん……」
「アンネちゃん、親父さんいる?」
俺が依頼を受けてきた旨を伝えると、彼女は「わ、わかりました」と言って、店の二階へと案内してくれる。
その間、アンネちゃんはうつむいて、俺と一言も会話を発さなかった。
サイカ道具店の店主、サイカさんはかなり強面のおっさんで、下手すると俺やラウルより冒険者じゃね?という体格もあり、威圧感が凄い。また、そんなおっさんが服の上にエプロンを着けて仕事をしているのを見ると、どこか職人めいたものを感じるときがある。実態は商品を卸して売る、普通の道具屋さんなんだけど。
「お父さん、依頼受けてくれた冒険者さん。なんだけど……」
アンネちゃんの声にサイカさんはこちらを見た。一瞬ぎょっとしているようだったが、すぐに表情が戻った。
「……こっちで仕事の話をしよう」
案内されたのは、売り場の奥の応接スペース。いつも俺たちが依頼を受けた時に、話をする場所だ。ここで一緒に酒を飲んだこともある。
もちろん、今はそんな軽い空気で座れるような場所ではないんだが。
「……なんで、うちのクエストを?」
サイカさんの声は、非常に重い。なんだか、もの凄く悪いことをした気分になってくる。やったのは俺の幼馴染なんだけど。
「他に受けられそうなクエストがなかったんです。ソロでやるのは初めてなもんで」
「ソロ……そうか……」
サイカさんはそう言って、蓄えた顎ひげを撫でる。
「こういう場合、俺は君に謝るべきなんだろうな」
「え?」
「ソロになったのも、うちの娘が原因だろう」
俺は焦った。そんなつもりは……ないわけではないが、少なくともサイカさんに糾弾するつもりはない。基本的に悪いのは、手を出したラウル。俺の中では、そのように極力完結させている。
「そんな、親父さんが謝ることじゃないっすよ」
「正直言えば、君のこともぶん殴ってやりたい」
えっ?ちょっと待って。俺はさらに焦った。
いきなりそんなこと言いだす?現役の冒険者が道具屋に何言ってんだと思うかもしれないけど、あんたに殴られたら、俺、多分ラウルとは違う意味で冒険者引退しちゃうよ?
「ラウルの奴は危ういとは思っていたんだ。アンネは君たちにもよく懐いていたからな。ラウルには君がついているし、大丈夫かと思っていたんだが……」
そう言われても。俺たちも子供じゃないんだし、プライベートにそこまで干渉なんて、できるはずがない。現在俺とラウルは、住んでいる宿舎も違うのだ。
「……親父さんは、ラウルとアンネちゃんがくっつくのは、どうお思いなんですか?」
「嫌に決まっているだろう!この間家に来た時、俺はあいつを殴りに殴って、家から追い出したんだ!」
あれからアンネも、俺と口をきいてくれない、と加えて、サイカさんはうつむいてしまった。確かに、結婚の理由が最低すぎるんだよなあ。
「……でも、このままで放っておくわけにもいかない。アンネはラウルが道具屋を継ぐのを手伝いたいと言っとるし。……正直、どうすりゃいいのか、俺にもわからんよ」
がっくりうなだれるサイカさんを見て、俺の心は痛んだ。本当にあいつは罪な男だ。
そして、俺はこの状況から、クエストの話へと持っていかなければならなかった。
いきなりハードルが高いよ。ラウル、お前本当に何やってんだか。
そして、今頃ラウルがレイラさんにどうしたらいいかと泣きついているというのは、何とかクエストの打ち合わせを終えて、一旦飯を食いに行ったときに入れ違いになったとレイラさんに教えてもらった時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます