第77話

「…それで……」


「美夜、ちょっとタンマ。ちょっとだけ頭の中を整理したいからさ。休憩させてくれ」


 このままラストバトルに突入するのは、非常にマズイ気がするんです。

 メンタル君も虫の息だしさ。

 なので焼け石に水だとしても、ちょっとタンマで精神統一をさせていただきたい。


「………ゴメンね…」


「…いやいやまたも話を遮って、こっちがゴメンだわ。悪いけど目を閉じてちょっと瞑想するからさ。待っててくれな…」


「…うん」


 目を閉じ、息を深く吸いながら、瞑想モードに突入。

 ここでどれだけメンタル君を回復できるかが勝負の鍵、全力で瞑想しちゃいましょう。

 …全力で瞑想って、なんか違う気がしないでもないけど…。


「……………」


 …つーかさ、言い訳なんて聞きたくないよね…じゃあないよ。

 何?言わなかったのは俺が絡んでくるし、俺のせいにしたくなかったからとかなん?

 許して欲しいとか言うなら、言い訳だとしても最初からちゃんと話すべきだろうに…本当にバカなん?

 もし言い訳前にメンタル君が耐えてくれてなかったら、危うくまた何も知らないまま罵倒するとこだったじゃねーかよ。


「……………」


 …でもとりあえず、なんやかんやでここまで話を進める事はできたんだ。

 今更後になんか退けないんだし、ここはもうこのまま突き進むしかないだろ。

 ここでリタイアとかダサすぎてありえんわ。


「……………」


 …それに今までの話で、ある程度はこの後の話の展開が予想ができるからな。

 ちょっと前までずっと思い込んでいた…美夜とカスが、イチャイチャズッコンバッコンしてたなんて、最悪な展開は絶対に無い。

 俺の予想では話の流れ的に、そこまで胸糞な話にはならないはず。


「……………」


 …はずだよね?

 …あの時の俺…あ、キスした、って認識した瞬間、速攻で逃走したからなぁ…。

 その後に普通のキスからベロチューに発展、更に…なんて事もやっぱり…。


「……グヌッ……!」


 …その時はその時だ。

 戦う前から負ける事を考えるバカがいるかって、有名な顎の人がそんな感じな事を言ってたじゃない。

 よし…こちとらイベントごとに毎度毎度しつこく何回も覚悟キメてんだ!

 その時はその時で漢として華々しく散ればいいだけの事!


「……よし、逝ける!!」


「…大丈夫?…もう、いいの…?」


「大丈夫!!」


 さぁ、二回目のキスの言い訳…聞かせてもらおうか!


「…そ、それでぇ?それから、校舎裏で美夜は、どうしたのぉ…?」


 …意気込んではみたものの、いざとなるとヘタレ根性がまだ残っていたせいか、言葉使いが妙な感じになってしまった俺氏。

 若干相馬っぽ…いや、オカマっぽいし、次からは気を付ける事にしよう。

 緊張感に欠けるので。


「…あのね…。あの時、校舎裏で伊藤先輩に…告白の返事と、距離を置きたい事、デタラメな噂を伊藤先輩からも否定して欲しい…って、伝えたら…諦める気はない、って拒否されて…」


 ネチっこいカスめ。

 業務用の高圧洗浄機なんかで、全身をくまなく洗浄するべきだと思います。

 存在自体が消えても仕方ないよね。


「…それでも、どうしても、っていうなら…最後に、ちゃんとキスさせてくれたら、それでスッパリ、諦めて…噂も何とかするって…一回も、二回も、大して変わらないんだし、ちょっと、チュッって、したら…ちゃんと、絶対、誰にも言わないって、約束もするから…って、言われて…」


「…それで、したのか?」


「…は、い…私…グスッ…嫌、だったん、だけど…バカ、だか、ら…他、の方ほ、う…全然…思、いつかな、くて…ヒック…ゴメ、ンね…」


「……そか…」


 …まぁ、なんとなくそんな感じなんじゃないかなぁとは思ってましたよ。

 とりあえずはまぁ…予想を越えないダメージですんだ…のかな。

 これよりもっと、糞みたいなシチュエーションだってありえたんだし…。

 これは…良い方なはずだよ、うん…。


 …キスの写真があるって話だったし、それで脅迫されて嫌々ながらも同意、二回目もした…とかだったら…もう少し楽だったのかなぁ…。

 …でも、妙な噂で外堀埋められて諦めないってやられんのも、中二のガキにとっちゃ脅迫と同じ様なもんだとも思うし…。


「…ハァ……」


 今のとこ耐えれてはいるけど…やっぱ、キツいもんはキツいなぁ…。

 メンタル君が凍えて、寒い寒いと言ってる気がするよ…。

 嫌だったとしても、それで同意しちゃったってのが…やっぱねぇ…。

 俺的には、一回も二回も大して変わるし…。


 それにやっぱり…のそんな話、聞きたくないわぁ…。


 もうさ、わかってはいたんだよね。

 でもそれを認めたら…他の男とキスしてるところを見たのに…それでも俺が未練がましく、ずっと美夜を好きだったって事も認めるみたいで…。

 ゲームのキャラに、美夜を重ねて見たりしちゃったりなんかしてて…。

 …まぁ今となっては、レンちゃんと美夜は別の存在になっているけどさ…。


 女々しいったらありゃしないよなぁ、俺…。

 そんな話を聞いても、やっぱり美夜が好きなままだし、許す事ができたら元に…って思ってるんだもの…。


 …でも1つ。

 それでも、どうしても気になるっていうか…。


「…なぁ美夜。まぁ…あの時はバカだった俺に、気を使ったんだろうけどさ…。仮にその取引がそのまま成功して、丸く収まってたとしたら…。俺に…ずっとキスした事、内緒にしてた?」


「…ずっと、内緒になんてっ…グスッ…無理、だよっ…!嫌、われくない、けどっ…!ユキ、君、好きなのに…裏切っ、たの…苦しく、て、自分、が嫌で…グスッ…気持ち、悪くでっ……!わ、私、ぢゃんと、謝、まるからっ…!許して、もらえ…ヒッ…る、ようにっ、頑張、るがらっ…!」


 …まぁ、美夜の性格ならそうなるよな…。

 うん…美夜は母親アバズレとは違うのだよ、母親アバズレとは…。

 母親アバズレみたいに、何年間も人を裏切り続け、内緒で違う男の子供を育てさせながら、ずっと平気な顔でいられるような女と、美夜は………。






 …本当に…違うのかな?

 …もし、また…俺以外の男と……。




「………グッ…!」


 …違う違う!

 美夜と母親アバズレは、違う…違うはずだ…!

 裏切って内緒になんてできないって!

 ずっと俺の事が好きだったのがわかるじゃん!

 もうバカな事はしないはずだよ…!

 …好きな人くらい信用できなくて、どうすんだよ俺…!

 駄目だって…美夜を信用しないと…。

 じゃないと俺達…元に戻れない…。

 美夜は…あんな母親アバズレとは、母親アバズレ、とは…母親アバズレ…………。






 ……はぅあ……。

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