第8話
なんでタイミング良く隣から出てきてんのこのズベ公達、さっさと帰ってろよ。
「あはは…。また会ったね、女泣かせのイケメン君。憎い男だねぇ」
誰が女泣かせの憎い男だっつの。
ちょっとした事で泣く神崎の涙腺が弱いだけだろ。
コイツ昔からなんかあるとすぐ泣くからね。
「あっ、ユキ君。さっきは急に泣いちゃったりしてゴメンね。勘違いなんだろうけど、またユキ君と昔みたいに話せるかもって思ったら、嬉しくて…」
勘違いなんだろうけど、とか言いながらもまた俺の呼び方ユキ君になってる。
明らかにさっきの話が影響してるね。
調子こいてんじゃねーぞビッチが。
昔みたいに話す?馬鹿なの死ぬの?
時間逆行してやり直す能力でもあんのかお前?
なら清い体になってから出直してこいや。
「勘違…(いすんなっつっただろうがこの腐れビッチ!)」
危ない、イラつくとどうしても本音が出そうになる。
…落ち着け、これから神崎が好きっぽく振る舞わなきゃないのにこれではマズイ。
俺にはまだ素の性格の悪いキモオタモードと、付け焼き刃のなんちゃってギャルゲー主人公モードしか対人性能がない。
つまり、付け焼き刃のギャルゲー主人公モードでこれから神崎に好きっぽく振る舞うって事になる。
俺の中にいる主人公の分身ができる好きな人への対応は、レンちゃんへ対するそれのみ。
…レンちゃん、これは浮気じゃないからね。
心も体もこのビッチに許す気はないから。
二人の未来の為とはいえ、上辺だけでもレンちゃんに対する好きっぽい行動をする俺を許してくれ…。
やきもちやきなレンちゃんと会う事が出来たら、すぐにこんな糞ビッチと縁を切るからさ。
あ、いつレンちゃんと会う事ができても大丈夫な様に、早く神崎傷つけても問題無い様にしなきゃな。
うっし、頑張ろ!
「勘違い、って去り際に俺言ったけど。雄信の説明にちょっとだけ違う部分があったからなんだ」
「…そうなの?」
そうなのよ、お前じゃないって部分。
「まぁ、大体はあのヒントで合ってるんだけどさ。その辺は察してくれると助かる…恥ずかしいからもうこの話は終わりって事で」
「そうそう!コイツ照れちゃってさ!あまりコイツの好きな人に突っ込むのはもう無しね!俺も的外れな事言っちゃうかもだし、もうこの話はしないから!」
ナイス親友。
色々と面倒を掛けてすまんな。
せっかく色々考えてくれていた親友の為にも、俺ももう余計な事を言わない様にしなきゃ。
「あたし達もその話はもういいもんね!ねっ、美夜!」
「うん、恥ずかしい事聞いちゃってごめんね」
お前達が俺の好きな人の話をいちいち聞いてこなければこんな面倒にならなかったのに。
マジで反省しろよ。
「じゃ、そんな感じで!いい加減腹も減ったし帰ろうぜ幸人」
「だな、俺も腹減ったし」
今日はなんだか疲れたし、久々にガッツリ昼飯食べよう。
イラつく女達のせいでストレスが溜まりすぎる前に発散しないと、発狂するわ。
「あ、そだ。今日2時から同じクラスの子達とカラオケ行くんだけどさ。二人も来ない?」
やだよ、面倒臭い。
時間と金の無駄だわ。
「無理しなくてもいいからね。ユキ君、カラオケあんまり好きじゃないでしょ?女の子いっぱい来るし…」
その通り、ぶっちゃけ俺音痴だし。
これも早く直さなければな。
それに女がいっぱいの密室とかマジ無理なんで。
「…幸人、女の子、いっぱい、俺、行きたい…」
言うと思った。
だがそうはさせんぞ。
お前女と押しに弱いじゃん。
信じてはいるが、女に囲まれて教えてーなんて俺の事聞かれたら、色々話しちゃうかもじゃん。
「悪い。今日は雄信と昼飯食べた後、一緒に俺の部屋を掃除する約束をしてるんだ。なぁ、雄信?」
親友の肩を、力を込めて掴む。
察せ。
お前なら俺の言いたい事が分かるだろ?
「うっ…そ、そうなんだよ!コイツの部屋マジで汚くてさぁ!もう、新たな生態系が誕生してんじゃないかってレベル!掃除料奮発するって言うから手伝う約束してたのよ!な、幸人!」
お、話し合わせてくれるだけで良かったんだけどな。
掃除料を奮発すればマジで掃除手伝って貰えそうだ。
後でちゃんと交渉してみよ。
「そういう事だから、またの機会に誘ってくれたら嬉しいな。マジで最近暖かくなってきたから、急いで掃除しないとヤバいんだよ」
カビと小蠅が活性化してくるからね。
どこからともなく現れるよね、あいつら。
「そっかー。残念だけど仕方ないね!カラオケは次また誘うよ!」
本当は誘われても嬉しくないんでもう誘わなくて結構です。
歌の練習は気兼ねなく一緒にアニソンを歌える親友とやりますし。
「…ねぇ、ユキ君。掃除料とかいらないから、私もお掃除手伝いに行っていい?」
「へ?」
何言ってんのコイツ。
しれっと俺の好感度を稼ぎにきたの?
黙って陽キャで集まってカラオケ合コンでもカラオケ乱交でもしてなさいよ。
「いや本当にヤバいくらい部屋汚いし、美夜ちゃんにドン引きされたくないから遠慮しとくよ…」
ほら、フレンドリーに名字じゃなくて名前で呼んであげるからこれで満足しな。
昔みたいに呼び捨てで呼ぶのは勘弁。
あんま調子こかれたら嫌だし。
「名前でっ…!私はどんな事でも受け入れるよ!?どんなに臭くて汚れてたって気にしないから!!ユキ君の力になりたいの!お願い!だから一緒に…」
…これ部屋の掃除の事だよね?
それになんか興奮してない?
目がマジなんだけど。
比田も雄信もポカンとしてないでこの娘止めろよ。
徐々に近寄って来てるから、このメンヘラ女。
あ、もうメンヘラ女が俺のパーソナルスペースにっ!
ええい、近づくなうざったい!
「い、いやでもさ!美夜ちゃんは良くてもカラオケ一緒に行く約束してた比田さんに悪いから!なっ、比田さん!」
「え?あたしは別に気にしないよ?美夜もカラオケあんまり好きじゃないから無理に誘ってた訳じゃないし。むしろ応援するから頑張れ的な?」
お前に期待した俺が馬鹿だったよky乳女。
「いーじゃん幸人。三人で掃除した方が早く終わるっしょ。お前の部屋の状況考えれば、手伝いは1人でも多い方がいいって。あ、それとも俺お邪魔かなぁ?」
「ほら!二人共こう言ってるから大丈夫!ユキ君と二人でお部屋デ…二人だけのお掃除でも私頑張るよ!」
この勘違いメンヘラビッチ、お部屋デートとか言おうとしてなかった?
マジで勘弁してほしいんだけど。
そして何故だ親友、何故お前までそっちサイドに…。
まさか裏切り?
…いや、きっと深い理由があるのだろう。
あれだけ俺の事を考えてくれていた親友が、裏切るはずがない!
きっと気にしないとか軽はずみな発言をした股も頭も軽い神崎に、俺の部屋のガチさを見せつけてドン引きさせようとしているのだ。
さすれば神崎から俺への好感度も下がり、積極的に近づいて来なくなるかもしれないしな。
そういう事だろ?親友。
まだ未熟な俺にはお前が必要だから、お邪魔なわけがない。
…絶対逃がさないからな?
「…じゃあ、美夜ちゃんにもお願いしようかな。三人で掃除すれば確かに早く終わるだろうし。そう、三人ならな。な、雄信?」
「…チ。じゃあ三人で。あ、そうだ!なんかあった時の為に、連絡先交換しといた方がいいんじゃない?」
うぐ、嫌だが仕方ない。
拒否する理由が思い浮かばないし。
サクッと連絡先の交換を済ます。
何故か今回必要無い比田の連絡先まで教えられたが。
「じゃあ、準備できたら俺に連絡する感じで。それじゃ、また」
「うん!ユキ君の家の近くに着いたら連絡するね!私、頑張るから!またね!」
話がまとまった後もダラダラと校門まで一緒に着いてきた面倒女二人と別れ、雄信と定食屋に向かう。
「…なぁ、気になったんだけど神崎さんってお前の家知ってんの?近くに着いたら連絡するって言ってたけど」
「…こんな事がなければ教える訳ないし、知らないはずだけど…。何であいつ俺の家知ってんの?怖っ!マジ引くんだけど!」
え、何?ストーカー?
ガチのメンヘラ女やんけ。
「あ、えーと!ああ、そうだ!俺が前に教えたんだった!お前の家に遊びに行く時、たまたま会って話したんだよ!うん!そうだったそうだった!いやー、忘れてた!」
「…勝手に人の家をビッチに教えるとか、以前の俺ならブチ切れてんぞそれ。まぁいいや、ギリギリ許してやる」
罰として嫌がらせをしたいところだが、レンちゃんの為に人間的に成長した今の俺は寛大だ。
親友よ、レンちゃんに感謝しなさい。
「…ありがとよ。ハァ、面倒臭い二人だな本当。おい、今日はガッツリ食うからな!ちゃんと奢れよ!」
うむ、本当に面倒臭い女達だよな。
「おっけー。あ、掃除料は別に出すから。話合わせてくれてサンキューな!」
「おう、期待してるわ。しっかし、あの汚部屋を掃除するはめになるとはなぁ…」
親友よ、掃除料は本当に奮発するから許してな!
あ、雄信には掃除料を奮発するけど、神崎の掃除料どうしよ。
まぁいらないって言ってたし、あいつへの掃除料は適当でいっか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます