第7話
裏切り者を連れて、本日2度目の男子トイレへの逃走。
只今、裏切り者の胸ぐらを掴んでの壁ドン尋問スタイル中。
「ご、誤解だからな!勘違いするなよ!…ぶふっ!あれじゃツンデレ乙じゃね?」
この舐めた裏切り者、どうしてくれよう。
「貴様…親友を謀ったな…!どうすんのアレ!あの場にいた奴等全員が完全に誤解してるよね!?嘘つき!信じてたのに!」
「いや嘘ついてないし?虹乃恋の特徴話しただけだし?」
その通りなんだけど、説明の仕方に問題があったと思います。
大ヒント、幼ななとか言ってる時に神崎の事指差してたろお前。
「…たとえあの女と特徴は一致してても、中身が全然違うから!つーかお前絶対確信犯だよね!?」
「そうだよ?」
あっさりと認めたやがったな、この野郎。
レンちゃんと俺の恋路を邪魔する不届きものめ、覚悟せい。
「そうか、ちゃんとお礼は返さなきゃな。今準備するから待ってろ。俺の奢りだ、遠慮すんなよ?」
「おい、親友。用具入れに何の用があるんだい?腕を離してはくれないか?」
離すわけないじゃん。
片手で準備するのは手間だが、逃げられたら意味無いし。
「なに、スペシャルドリンクをご馳走してやろうと思ってね。そこの白い陶器の中にあるから待ってろ。コップが無いからこのバケツでいいよな。当たり付きだからお得だぞ?」
手前の部屋にある白い陶器が良さそうだ。
トッピングのチョコレート付きだし。
この素敵なブラシで少しづつバケツに移すとしよう。
「断固拒否するぅ!そんなの絶対飲まねーし!」
「じゃあしょうがない。ぶっかけよう」
ぶっかけるにはドリンクの量が少ないな。
これでは満足してもらえないかもしれない。
素敵なブラシで擦るオプションも付けとこ。
逃げようとする親友を素敵なブラシで牽制しながら、個室に追いやる。
準備完了、こちらにも多少の被害は出るだろうが親友を手に掛けるんだ。
相応の覚悟はするべきだろう。
俺も…雄信もな…。
「覚悟はいいか?俺はできてる」
「待て待てっ!!違うんだ!バケツを置け!さっきのアレはえー、うん、アレだよ!その方が面白いとかそういうんじゃないから!理由がちゃんとある!!」
ほう、面白いとかそういうんじゃない理由があると。
「…話してみるがいい。俺を納得させてみろ」
納得できなかった時にすぐぶっかけれるように、バケツを置く気はないがな。
「…いいか、お前は朝に比田と神崎さんに好きな人がいるとバラした時点で詰んでるんだよ。これに気付いたのは本当にギリギリだったぜ」
「…続けたまえ」
「神崎さんと比田の関係は分かるだろ?そう、俺とお前と一緒。親友だ。今回は黙っていても大丈夫だったかもしれないが、神崎さんがいずれお前の本当に好きな人を知って傷つけば、比田は親友としてなんとしてもその理由を知ろうとするだろう。神崎さんが理由を黙っていても無駄だ。確実にお前が虹乃恋が好きだと比田にバレる」
確かにまた神崎が変な感じになれば、あいつにだけレンちゃんが好きだと話すつもりではいた。
朝と言ってる事が違うのは朝は考える時間が少なかったからまぁ仕方ないとして、神崎が黙っていても無駄だというのが解せぬ。
「…何故比田にバレると思うんだ?」
「神崎が傷ついた理由とか、お前と神崎の関係知ってるなら大体分かるでしょ。お前に好きな人がいるって知ってるわけだし。親友が傷ついてキレた比田が問い詰めてくんだぞ?お前理由言わずに耐えられる?」
ガチギレした比田に、ビンタをおみまいされた時の事を思い出す。
あの日は前日にテレビが故障したせいで、寝る前と朝にレンちゃんに会えず機嫌が悪かった。
下校の時、校門の近くでさよならと声をかけてきた神崎を必要以上に罵倒したんだよな。
『この糞ビッチ、お前みたいなヤリマンが腐った口で話しかけてくんな。耳が腐るわ、キモいんだよ。あっ、3m以内に近寄らないでもらえる?イカ臭いから』
ここで神崎が暗い顔でうつむく。
隣の比田は顔真っ赤。
ここで止めときゃまだ良かった。
『お、糞ビッチがへこんでら。大好きなイケメン達に連絡して慰めてもらえばぁ?いっぱいいるんだろ?遠藤先輩しか俺は知らんけどねー』
神崎が静かにポロポロと涙を溢す。
比田が般若の形相で俺に近づき、無言で右ほっぺに全力ビンタ。
左ほっぺにも全力ビンタ、最後に鼻を巻き込んだ右ほっぺにもう一撃。
痛みと止まらない鼻血に苦しんでいると、比田は泣いている神崎を連れて颯爽とその場を去っていた。
その時の我が親友、大友雄信はその場にボーっと立っているだけだった。
そしてその日の夜、雄信からの情報によるとクラスのグループチャットで俺の所業がバッチリ拡散されていたらしい。
次の日から皆様ゴミを見る目でしたね。
ちなみに俺はクラスのグループチャットが存在している事すら知らなかった。
ふむ、あの時のキレた比田が問い詰めてくるのか。
「…無理ぽ」
ムリムリムリムリカタツムリ。
耐えられないね、おっかないもの。
「だろう。ちなみにお前がなんとか耐えられたとしても、理由を知ってる俺にもキレた比田が問い詰めてくる事は確実。結局、どうお前が足掻いても100%バレます」
親友を売るのか!?
と、言いたいとこだがしょうがない。
俺も雄信と逆の立場なら、秒で口を割る自信があるからな。
「そしてキレた比田は神崎を傷つけた理由を拡散するだろう。悪意を込めてな。これじゃ駄目なんじゃないか?」
「はぅあっ!!」
さすが我が心の友。
いつも俺を気づかせてくれる。
「そこで俺は閃いた訳。いつまた病み神崎さんになって好きな人を教えなきゃいけないかわかんないだろ?比田も教えろって便乗してくるだろうし。それが明日の可能性だってある。そしたらゲームオーバーじゃん?あ、病み神崎さんに好きな人を教えないって選択は、ブスッと逝かされる可能性がありそうだし排除したよ。まぁとりあえずお前が神崎さんに好意があると思わせておけば、しばらくは誤魔化せると判断したわけよ」
親友の言葉に両手から力が抜け、バケツとブラシが床に落ちる。
バケツの中身が零れなくて良かった。
「…そうか!今悪い噂とレンちゃんが好きだという事が言い触らされたら俺は詰む!どうせいつかバレるなら、誤魔化せている間に神崎を傷つけても問題無いほどの男なれという事か!!それなら確かにもう詰みだった現状でもなんとかなるかもしれない!レンちゃんに会えるまでは神崎が好きかも、みたいな感じで曖昧に振る舞えばいいんだな!」
レンちゃんの為だ、どれだけ神崎が嫌いでも我慢してみせる!
「あっ、うん。そんな感じ…かな?」
「こんなに俺の事を考えてくれていた親友を疑って悪かった!さぁ、昼飯を食いに行こう!何でも好きなものを奢ってやろうじゃないか!」
俺がうっかり好きな人の為に頑張ったと最初に話してしまったミスを、なんとかリカバリーしてくれたんだ。
食後にデザートも付けてやろう。
「お、おう!ありがとよ!」
「ほらほら、早く行かないと置いていくぞ!」
ボーッとしてる親友より先にトイレを出る。
「…よくあんな説明信じたな…ちょっろ…」
何か聞こえた気がしたが、トイレから出てすぐに目に入った人物にビックリ仰天でそれどころじゃなくなった。
泣いたせいか目を少し赤くした神崎と困り顔の比田が女子トイレから出現した。
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