時間差ラブレター
てんこ
第1話
「先輩、なんですかコレ?」
「いつもは各々で好きなミステリーを読むだけだからな。たまには趣向を変えてみた」
「各々と言っても、私と先輩しかいないですけどね。まぁ良いでしょう。つまり先輩が用意したこの暗号を解くのが今日の部活動ですね。すぐに解いてみせますとも」
「……あんまり早いと自信なくなるから止めて?」
時は放課後場所は部室。我がミステリー研究会は今日も俺先輩と愛らしいマコちゃん後輩の二人だけだ。実に素晴らしい時間だ。お互い好きなミステリーを読むだけで特に感想も言い合ったりしないけど。
しかし俺にとってこの研究会のメリットは大きい。現在の校長が大のミステリー好きで研究会にも関わらず年間10万円の部費が与えられている。しかもブックオウフでインターネット購入できるようにしてくれていて図書館にない本を自由に手に入れることができる。それでも部員が少ないのは悲しいかな現代社会の活字離れ故なのだろう。その分一人当たりの部費が多くなるから全然良いけど。5万円だぜ?俺のお小遣い約一年分だ。うちの高校バイト禁止されてるから助かりますわ。
いやいやいや。もう一つ大事なメリットがあるじゃないか。それは何か。もちろんマコちゃん後輩の存在だ。だって可愛いんだもん。ちっこいし眼鏡外すと美人だし。さっきの台詞聞いた?何故だかいつも自信満々でその癖あんまり勉強できないんだぜ?よいよい。可愛いけりゃええねん。
「先輩、私を舐めてるんですか?こんな子供騙しな」
「マコちゃん後輩よ。それは心外だな。恐らく後輩の頭に浮かんでいる答えは正解ではない。もう少し考えてみるが良い」
「えー?変な引っかけがないとすればただの足し算じゃないですか?っていうか問題文のおじさんの人生が悲惨過ぎてそっちが気になるんですけど」
ちなみに俺から彼女へ向けた暗号文は以下である。
「今日は憂鬱だ。だってそうだろう。
煙草たたたたたたたたは切れたし
お金はないし職もたた失ったし妻
になんて言えたたば良いか言い訳
も思い付たたかなたたい。息子も
大学たたに入るって時たたに俺っ
てやつはどうしてこう運がないん
だ。えーっと、たた入学金が50万
だろ?年たたたたたたたたた間の
授業料が100万?たたアパート代
が年60万円たたたたたたたたたた
だとしてその他食費たた等も60万
はいるわな。さて問題たたです。
俺はいくら借金すれば良いですか。
ヒント:たぬき」
「そうか。そんじゃまぁ、とりあえずマコちゃん後輩が導きだした答えを聞こうじゃないか。あ。ちなみに完全に正解じゃなくても、大体合ってれば正解だから」
「なんですかそれ。じゃあ、答えを言いますよ。正解は930万円です。……冷静に考えると、大学行ってただ遊ぶだけとか死刑ですね」
「ああ。俺も大学に遊びにいくようなやつは死ねば良いと思っているが、残念ながらマコちゃん後輩の答えは正解ではないのだ」
「マジですか。これ以外なくないですか?あ。大学が四年制じゃないとか?大学院まで考える?いや、そもそもおっさんは職を失ってるんだから彼らの生活費も考慮する必要があるか。……先輩、もう少し時間を貰っても良いですか?今の答えは浅すぎました」
「良いだろう。少し待とうではないか」
……マコちゃん後輩。完全にフェルミ推定だと思ってるなコレ。違うんだよなぁ。あ。ちなみにフェルミ推定ってのはアレね。国内に豚は何匹いますか?みたいな問題。これを今持っている知識から推定して答える。例えば豚の例。日本の人口は約一億。平均して一人当たり毎日20gの豚肉を摂取。豚の体重300kg。可食部50%。出荷されるまでに掛かる期間一年。そこから導きだされる答えは……、500万頭!!!みたいな感じ。実際には1000万頭くらいだからそんなに外れてもない。頭が良い系のキャラがやると結構カッコいい演出になると思います。
しかしだ。さっきも言ったけど違うんだよなぁ。フェルミ推定に騙されないで欲しいし何なら文章なんて関係ないのだ。硬い頭を柔らかくするのだ!
「先輩!分かりました!答えは750万円です!」
「ほう……、して、その心は?」
「まず前提として彼らに貯金はないです!いかにも駄目そうなおっさんですし、そんな男と結婚する女もろくな人間じゃないから貯蓄なんてありません!当然、再就職も難航します。少なくと一年は要するでしょう。その間の生活費等で約300万円が必要です!」
「ふむふむ。それから?」
「一年以内に就職が決まるなら、本来なら大学四年間分の借金は必要ありませんが、大学だけは行かせてやりたいという親心があります。したがってその間に掛かる930万円は変わりず借金することにします!しかし!しかしですよ!親は奨学金という闇の制度に気付いてしまいます!息子には月10万円の借金を背負って貰います!この金額についてはおっさんの借金ではありません!従って答えは、300+930-480で750です!いかがでしょうか!?」
……すげぇ勢いだな。余程自信があるのだろう。テンション高くて可愛い。もう少し近付いてくれても良いんだぜ?しかしだ。フェルミ推定としては80点くらいはあげたい所だが正解には程遠いんだよなぁ。っていうかマコちゃん後輩の推定が嫌にリアルで怖いんですけど。苦学生がんばえー。
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!」
「ドゥルドゥルドゥルドゥル~……」
「ちょっと似てる……」
「…………、残念!」
「え~?本当ですかぁ?悔しいから嘘ついてません?」
「しょうがないなぁ。じゃあ特別大サービスでヒントを授けよう。ヒントその1!たを抜いた文章にたがない」
「ふーむ……。確かに。ちょっとコレだけじゃ分からないんですけどぉ!」
「ヒントその2!俺はマコちゃん後輩が好き」
「いやまぁ私も嫌いじゃないですけど、それヒントになってます?」
なってるなってる。なんならそれが答えだし。もう少ししたら俺も大学生だ。そしたら彼女との関係も切れてしまう。そうなる前に俺は彼女に思いを伝えたい。というか結婚を前提にお付き合いしたい!だって可愛いし!働かなくて良いから嫁においで?
「……分かりません!先輩にしてはちょっと難易度高くないですかコレ!」
え?そろそろ分かって欲しいんですけど……。あとさらっとディスらないで?
「ええっと。じゃあヒントその③!少し離して見てみれば?」
「うーん。うん?うーーん。これは、分かりませんねぇ……」
……嘘やん。えー?いや。でも気付けなければ見えないかもしれない。
「ヒントその④!たを塗り潰して遠くから見て!!」
「分かりません!!」
即答!?せめて塗り潰してからにしてくれない!?
……ん?あれ?良く見たらマコちゃん後輩ニヤニヤ笑ってない?
「私、直接先輩の口から答えを聞かせて欲しいんですけど。さっきみたいなノリじゃなくて、ちゃんとですよ?」
……なるほど。言ってどうなるかは分からない。しかし少なくともヘタレな先輩とは付き合いませんと。フフ。やっぱり可愛いな。良いだろう。ここで言えないような男はマコちゃん後輩と恋人になる資格はないのだ。受けて立つ!
「……あー。あ。えーとですね。答えですよね?うん。実は意外と簡単なんだけどさ。だから、えーと」
……。俺!!俺よ!頑張れ俺ぁぁぁぁあああああ!!!
「……マコちゃん後輩よ。少しだけ時間をくれ。いや、本当すぐなんで」
「良いですよ?少しだけ待とうではないか!」
フフ。全く、今日も本当に愛らしいマコちゃん後輩だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます