第4話
「願いを言え」
「だから、別にいいですよ」
「なんで断るんだ!」
「……えーっと。なんとなく?」
「願いを言わなきゃ悪戯しちゃうぞ」
「お菓子じゃないけど、煮干しをあげたじゃないですか」
黒猫ちゃんはヒゲを下げて、なんとも情けない顔になりました。
「あ、えっと。それじゃあ、ムリならいいんですけど、不幸があまり起こらないように、運をよくしてほしいです」
「願いが曖昧過ぎる上に、一生、っていうのは、欲深いだろう」
「そ、そうですか? じゃあ、今日だけでいいので、すごくいいことがあるといいです」
「……にゃあ」と、黒猫ちゃんは誤魔化すように、ただの猫をフリをして一声鳴き、去って行ってしまいました。
「あー、誤魔化した! ふふ。まあ、いいか。ついてないのはいつものことですし、黒猫ちゃんとのおしゃべりは楽しかったですからね」
私は立ち上がって、学校に向かいました。ゲリラ豪雨はすでに止み、雨上がりのさっぱりとした空気に包まれました。
いつもよりも良かったことと言えば、そのくらいです。黒猫ちゃんに願ったような、ものすごくいいことは、起こらないし、どちらかといえば、ついてないほうに天秤が傾いていました。あくまで通常通りの私の日常です。
びしょ濡れの制服は、体操着に着替えましたが、靴下もぐっしょり濡れて気持ちが悪かったですし、黒猫ちゃんと話していてたせいで遅刻して、ガッチリ怒られました。
教科書は濡れてふやけたし、数学の小テストは最悪の出来でした。
だけど……、だけど、もしかしたらもしかして、何かすごくいいことがあるかもしれない、という気持ちは私の中に居座り続けて、どこか幸せな気持ちでした。
帰り道の夕焼けはきれいなオレンジ色で、私の顔を赤く染めました。
もうすぐ家に着く頃、ほんの少し寂しい気がしました。黒猫ちゃんと話した特別な一日はもう終わってしまいます。
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