名前にまつわるエトセトラ

和來 花果(かずき かのか)

第1話

 黒猫が目の前を横切った時、「ついてないなあ」と、思いました。けれど、振りかえってみれば、私の人生はいつも不幸側に天秤が傾いています。そう考えると、残念ながら黒猫が目の前を横切るくらいの不運はデフォルト、つまり初期設定通りみたいなものです。

 そう、黒猫が「おめでとう」なんて言わなければ。


 私の名前は、福富ふくとみ さち

 福に富に幸。どこをとっても、やたらに幸運を主張する名前です。不運が取り付く島もないように思えますが、漢字の読み方を変えれば、富は「ふ」で幸は「こう」……。

 そして残念ながら、これまでの人生は、福と富と幸の恩恵よりも、「ふこう」の方が絶対的な優勢を保っていました。

 急いでいる時に限って信号は赤になるなんて日常茶飯事。行列に並べば私の前で目当ての商品は売り切れ、試験の日には電車が止まり、仲のいい子とは隣の席になれたためしがありません。

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