銀色の小悪魔と赤光の姫君

琉水 魅希

第1話 白銀真希と火野夏希

 白銀真希は身長145cm、体重37Kgとごく普通の女子高生。

 銀色の髪と大人しい性格のごく普通の女子高生。


 その第一印象から言い寄ってくる男子は多かった。

 窓から外を見るだけで、儚い美少女が何かに悩んでると勘違いされてしまうくらいには周囲の的だった。


 高校2年の7月中旬。

 現代、教室にもエアコンが常備されているおかげで、教室に汗や制汗スプレーの臭いが充満する事は殆どない。

 親世代では夏は地獄だったという。窓を開けていても汗とスプレーの臭いで授業が苦痛だったというのは所詮聞きかじったものだ。


 授業中白銀真希が窓の外から覗いているのは、体育の授業を受けているクラスの様子。


 (こんな炎天下の中で可哀想に。私の髪と肌では直接頭皮や皮膚にダメージがいっちゃうよね。)


 真希はそう考えていたのだが、その様子を見ていた男子達の思考は違う。

 

 (今体育をやってるクラスは何年名組だ、白銀が誰かを見てるぞ。要注意や。)

 と、特定の誰かを見て憂いているように映っているのである。



 


 「ずっと前から好きでした。付き合ってください。」


 真希の目の前で頭を下げて告白した男子生徒は目を瞑って暑さと熱さと沈黙に耐えている。


 見た目はイケている漫画研究部の部長の3年生。

 

 「ごめんなさい。お付き合いは出来ません。」


 崩れ落ちた漫研部長は震える唇でさらに言葉を続けた。


 「そ、それじゃ、せめて薄い本……じゃない。貴女をモデルにした本を作る事は良いですかっ。」


 告白の時よりも力が込められているのが真希にも伝わってきた。


 「そうやって漫画の中で私にあんな事やこんな事をするというのですね。あの同人誌みたいにっ。」


 その返答を聞いた漫研部長は、悦びの笑みをうかべていた。


 「78・57・80、これ以上過大な容姿にしないというなら良いですよ。」

 漫研部長は3つの数字が何を意味するのかを理解した。


 「あ、ありがとう。告白は失敗したけどこっちは大成功だよ。本当にありがとう。」

 深々とお辞儀をして部長は立ち去っていった。

 真希も同じ方向に行かなければならないのだが、数歩歩いたところで再び誰かに声を掛けられ止まらざるを得なくなる。


 「白銀さん。」


 声のした方へ向くとサッカー部のエース君がいた。見た目は良いのだが、彼の事はなんとも思っていない。

 雰囲気で真希にはこれが、告白するために呼び止めたという事がわかった。


 「僕もずっと前から君を見ていた。砂上に咲く一凛の花のように美しい貴女の全てが好きです。付き合って欲しい、勿論男女の関係という意味の付き合って欲しい。」


 (僕もって事はさっきの漫研部長さんの告白を聞いていたという事。ずっと前から見ていたってストーカー?砂上に咲くってそれ仙人掌の花?)


 (二度言い直さなくてもわかるけど、「突き合って」なわけないよね。誰がネタで突き合うというの。男女の関係てそれこそありえない。)


 真希はサッカー部のエースが何を言ってるのかわからず返事は当然こうである。


 「ごめんなさい。貴方とは付き合いません。男女の関係とか無理です。」

 (そんなものは誰にも望んでいない。なぜ私を放っておいてくれないのか。)


 「俺は自分の容姿にある程度自身を持っている。何がだめなんだ?」


 突然両肩を掴んで気迫たっぷりな姿は真希には狼に見えていた。


 「なっ、そういうところです。汚らわしいっ。」

 パンッパンッと、どこからともなく取り出した扇子でその手を弾く。


 (これだから男性というものは……)


 「ちっこの。クソアマがっ。」

 随分と酷い捨て台詞を吐いてその場を去っていくエース。


 (さっきは好きだと言っていたのにクソアマ呼ばわりなんて。だから嫌なんだよなぁ。思い通りにならないと暴言や暴力に訴える野蛮な男子は。)


 それでも教室に戻るためには彼らと方向と同じ方へと向かわなければならない。

 真希はため息をつきながらも歩を進めるしかなかった。


 曲がり角を曲がったところで真希は衝撃の出会いをする。


 赤い髪をした女子生徒にぶつかったのだろう、地面に尻もちをついて小鹿のようにガクガクと震えている先のサッカー部エース(笑)


 真希はこの女子生徒を見た時に胸と脳に電撃が走った。


 赤髪の女子生徒が真希の方へと視線を移すと、これまた時が止まったかのように見つめてくる。


 それは数秒の事で、少女の視線は地面に転がるエース(笑)へと移る。


 「オイ、テメー人にぶつかって来て謝りもしないとはどういう事だ?親や教師に習わなかったのか?」


 凄んで睨みを利かせてくる赤髪の女子生徒に、怯えた表情で口をぱくぱくさせる事しか出来ないエース(笑)


 「アア?テメー口付いてんのかよ?ち〇こ付いてんのかよ?はっきり喋れ!か弱い女子生徒にぶつかっておいてごめんなさいも言えないのか?」


 (言ってる事はごもっともだけど、多分怖くて何も言えないんじゃないのかな。というかか弱いって誰の事だろう。あ……)


 

 何か臭ってくると思ったらエース(笑)はお漏らしをしていた。


 あばあば言ってるエース(笑)はじわじわとその場から離れると、ようやく立てるようになったのか足早に走って去っていった。


 ところどころ漏らした液体を地面に残しながら。


 「なぁ、私そんなに脅してたか?」

 赤髪の女子が訪ねてきた。


 「当事者であるサッカー部エース(笑)には恐怖だったんじゃないかな?髪が赤いから3倍強そうだし?」


 去り際に人を恫喝してきたような相手だ、庇う必要もない。

 ただ、教室に戻るの遅れたなと感じているだけだった。


 「私は火野夏希。2年3組だ。それと一応さっきの事は黙っててくれ。これ以上停学はまずい。」


 火野夏希という赤髪の女子生徒は停学の回数が多く、そろそろ出席日数がまずいらしい。


 (火野夏希?通りで違和感があるなと思ったわけだ。)


 「私は白銀真希、2年3組。」

 それだけ?という目で見てくる夏希。

  

 「それで、誰にもチクらないでくれ。なっ、これでも高校は卒業したいんだ。」

 それなら揉め事を起こさなければ良いし、きちんと授業に出れば良いだけの話であるのだが、同じクラスの真希が見た事ないくらいだ。

 停学関係なしに授業もサボりが多いのだ。


 「私の出来る事ならなんでもするからっ」

 その目は何かを訴えているように真希には映っていた。


 「なんでも?」

 首を傾げて聞き返す真希の顔は美少女(小中学生的な意味)で可愛くあどけなく、そしてあざとく見えた。


 「出来る範囲で。」


 「じゃぁ……」

 真希が夏希に対して正面に向き直り、真剣な表情をして伝えた。


 「さっき最初に目が合った時にビビッときました。私と付き合ってください。もちろんで。」

 先程の玉砕した二人と同じような陳腐な告白をする真希に、夏希はぽか~んと口を半開きにして固まっていた。


 


 「やべぇ、青春だ。イベントスチルだ。これは良い本薄い本が作れそうだ!」

 先程告白が玉砕した漫研部長がこっそり撮影をしていた。

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