初めての感覚

 目覚ましのアラーム音に目を覚ます。

 ううう、もう朝か……

 音を止めて起き上がる。なんか知らんがなんとなくもやっとするなあ。

 日付を確認したら17日だった。飛んでない。

 わーい、記憶飛ばないってサイコー、とか思いながらいつも通りに支度をして家を出る。「行ってきます」

 誰もいない空間に手を振ってドアを開けた。今日はどうなるんだろうなあ。浅いかな? 深いかな? それとも元に戻る? 違う変化が起こる? ……まだ分からない。

 そういえば今日もちょっとぽやっとしてるなあ。また亜希に言われそうだ。

 そんなこんなで学校に着く。廊下を歩いていたら後ろからいつもの声。

「華奈ーっ、おはよーっ!」

 振り返る。振り返ることだけが僕の出来ること。

 だけどそこで今日の新しい変化が起こってしまった。

「……華奈? ちょっと、おーい?」

「……え……あ……」

 勝手に動いてくれる口が動いてくれない。自分で喋らないといけない。でもそれだけならまだなんとかできる。しかし、それと同時に。

 沈まない。深くならない。浅くならなければ浮きもしない。感覚が、完全に独り言のときと一緒だ。

 これが、本当の「会話する」という感覚……

 人間ならば知っていて当たり前の、僕の知らない感覚……

「華奈? 顔青いよ? 気分悪い?」

「……お……は……」

 駄目だ、完全にパニックになっているのが分かる。おはようの言葉が終わらないうちに僕は回れ右をしてダッと駆け出した。

「えっ、ちょっと華奈!?」

 うるさい、ちょっと1人にさせろ、ただでさえちょっと体調悪いんだ、突然2つも3つも変化おこんじゃねーよ、こんなん逃げる以外にどんな道があるっていうんだ、そもそもなんで僕がこんな目に遭わないといけないんだ、僕はただただ普通に生きてただけだろ、確かに性同一性障害とか起こしたけどあれ完全にどう考えたって僕のせいじゃないだろ、なんで、なんで、なんで……

「華奈! 危ない止まって! お願いだから!!廊下は走るなーっ!」

 うるさい。うるさいうるさいうるさいっ

「うるさいっ!!」

 僕は、僕は、僕は。

 俺は!!

「華奈! マジで止まって! 階段! 危ない!」

 階段くらい普通に降りれるわっ!

 でもこけた。1番最後の段でつまずいて派手にこけた。

「華奈!? ほらこけた! ちょっと大丈夫!? 華奈!?」

 痛い。そのままべしゃっとこけたからめちゃくちゃ痛い。でも動きたくない。いや動けないのか?

 あー……もうなんでもいいや、なんか遠くから誰かの声が聞こえるだけだし、なんか視界暗くなってきたし、何より痛いし。

 なんかもうどうでもいいや。

 なにもかもとりあえず放棄した僕の意識はぱたっと絶えた。

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